第6巻 第2号

ページ数 タイトル/著者
121~130 公的主体に対するルサンチマンが新自由主義支持意識に及ぼす影響に関する実証的研究
沼尻 了俊、宮川 愛由、林 幹也、竹村 和久、藤井 聡
131~136 組織のレジリエンスに関する研究―Safety-I及びSafety-IIを中心に―
加藤 淳
137~147 医療現場の看護職に対する合意形成理論と方法論を用いた倫理教育―ファシリテータに必要な要素についての一考察―
吉武 久美子
149~158 私事交通を考慮した行動群と居住意向に関する検討―群馬県高崎市を事例として―
塚田 伸也、森田 哲夫
159~165 ムスリムに対する脅威認知への統合脅威理論の適用可能性―日韓における中国人、日本人/韓国人、外国人に対する脅威との比較を通じて―
向井 智哉、松木 祐馬、金 信遇、木村 真利子
167~190 富山市のコンパクトなまちづくりの歴史的な意義―路面電車南北接続による市民百年の夢の実現―
本田 信次
191~198 人口減少・少子高齢化に伴う都市の老いと住宅地地価の変遷
清水 宏樹、大橋 瑞生、谷口 守
199~208 機能搭載型自動運転車(ADVUS)の利用意向とその要因―搭載機能の違いが及ぼす活動間の比較―
御手洗 陽、安藤 慎悟、谷口 守
209~220 外国人住民に対する防災情報提供方策の現状と課題
小倉 亜紗美、岩本 みさ、神田 佑亮、河村 進一
221~234 学生対話の特性からみた高レベル放射性廃棄物処分の問題
上村 祥代、川本 義海
235~243 高崎市中心市街地における商業機能を持つ施設の歩行者等通行量と土地利用に関する考察
西尾 敏和、森田 哲夫、塚田 伸也
245~254 歴史的風致維持向上計画の認定78市町にみる歴史的風致の傾向と特徴
岩本 一将、西村 亮彦、舟久保 敏
255~266 農地のガバナンスをめぐる合意形成のプロセスデザインの考察―中山間地域における「人・農地プラン」の展開を手がかりに―
豊田 光世、高島 徹、北 愛子、中川 克典
267~278 都市中小河川の流域ガバナンスに向けた市民プロジェクトの展開―神戸市・福田川における環境保全の事例から―
高田 知紀、山口 幸人、山本 直人、塚本 満朗
279~290 交通バリアフリーの取り組みに関するプロジェクト間のPDCAおよび障害当事者運動と市民参加の影響
土橋 喜人、大森 宣暁

掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・桑子 敏雄・藤井 聡・森栗 茂一
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)

公的主体に対するルサンチマンが新自由主義支持意識に及ぼす影響に関する実証的研究

沼尻 了俊、宮川 愛由、林 幹也、竹村 和久、藤井 聡

新自由主義に基づく主張が活発になされ、それが政策に継続的に反映されている状況に疑問や問題意識を持つ立場にとって、なぜそうなのかを論理的に分析することは共有知としての大きな意味があるし、公的実践貢献性がある。そのための手がかりとして、ルサンチマン概念の形成について、広範な文献調査をもとに歴史も含めて簡潔に説明するとともに、新自由主義についても経済学の範囲に留まることなく、社会学並びに政治学も含む文献調査を中心に考察を深めている。そして今の日本における政策決定、世論形成に重大な影響を及ぼしているこれら二つの関係性について、因果関係仮説とその計測方法・分析方法を、前半で展開された考察をもとにきわめて論理的に構築している。実証的科学論文として優れているとともに、得られた知見はこれからのわが国の市民社会の在り方について重要な課題認識を提供していて、共有知性と公的実践貢献の双方を高いレベルでクリアしている。

組織のレジリエンスに関する研究―Safety-I及びSafety-IIを中心に―

加藤 淳

本論文は、何らかの危機的な事態が生じた場合にそれを乗り越える力を意味するレジリエンスに関して、それを維持、増進することを目指す「レジリエンス・エンジニアリング」という概念に着目し、その既存研究を総合的にレビューした上で、それを確保するための方法論を包括的に論じた論文である。安全性についてのHollnagel(2014)が整理したSafety-IとSafety-IIという分類概念を活用し、これまで「常識的」に採用されている「悪い方向へ向かう物事ができるだけ少ないこと」を目指すSafety-Iに基づくレジリエンス対策よりもむしろ、「できるだけ多くのことが正しい方向へ向かう」事を目指すSafety-IIに基づくレジリエンス対策の方がむしろ優越している可能性を強く示唆している。この示唆は今後のレジリエンス確保の官民の取り組みにおいて決定的に重要である点を高く評価し、掲載に至った次第である。

医療現場の看護職に対する合意形成理論と方法論を用いた倫理教育―ファシリテータに必要な要素についての一考察―

吉武 久美子

本論文は、医療現場で働く看護職に対する合意形成とファシリテータ教育を取り入れた倫理教育の事例と既往研究を紹介した上で、医療現場の話し合いのファシリテータで必要な要素を整理するものである。ファシリテータ教育のアプローチには様々に考えられるところであるが、この論文で紹介されている、ファシリテータを構成する要素を7つ抽出し、それぞれについての対策を考えさせるというアプローチも、ファシリテータ教育に実践的に貢献しうるものと評価されたことから、その掲載を決定した。

私事交通を考慮した行動群と居住意向に関する検討―群馬県高崎市を事例として―

塚田 伸也、森田 哲夫

この論文では、群馬県高崎市においてPT調査の本体調査世帯票と付帯調査である「交通・生活に関するアンケート調査票」を駆使して、個人・世帯属性、私事交通の実情から6つの行動パターン(行動群)を多変量解析により抽出し、これと居住意識との関連性を分析記述している。その結果、都市部である高崎地域においても自動車依存の傾向が高いこと、同時に、都市の集約化政策を進めるためには公共交通などの自動車以外の交通手段への転換を促す政策が有効でること、一方、郊外部では車依存の女性の行動群に対しては子育て支援のための送迎支援が有効であること、そして、山間部では車依存の高齢者の行動群が類型化され、通院交通行動の支援やリモート診療が有用である、等の知見が得られている。こうした知見もさることながら、こうした行動群を用いた分析方法それ自身がそれぞれの地域において求められる交通政策を明らかにする上でも有用であると判断されたことから、掲載決定となった。

ムスリムに対する脅威認知への統合脅威理論の適用可能性―日韓における中国人、日本人/韓国人、外国人に対する脅威との比較を通じて―

向井 智哉、松木 祐馬、金 信遇、木村 真利子

本論文は、日本人が異文化、とりわけムスリムに対してどのような脅威を抱くのかについての基礎知識を、韓国からのデータも交えて提供するものであり、好むと好まざるとに関わらず進行する移民流入社会における社会のあり方を考える上で貴重な知見を提供している。分析にあたっては、ムスリムに対する脅威には現実的脅威認知と象徴的脅威認知の双方があるという異民族に対する脅威について一般的に想定される理論的前提に立ち、心理分析を行ったところ、必ずしもそうした理論的前提が成立しないことが明らかにされた。これより、未だ日本では、ムスリムを身近に感じる経験が少なく、欧米諸国などのように異民族が多い国家において一般的に観察される現実的脅威認知と象徴的脅威認知が個別に形成されるという現象が明確化されておらず、未だ漠然とした脅威認知に留まっている可能性が示唆されている。こうした知見は、現時点の日本においてムスリムを移民として受け入れた現実と日本人達が向き合う上で参照すべき重要な基礎知見であると判断されたことから、掲載を決定した。

富山市のコンパクトなまちづくりの歴史的な意義―路面電車南北接続による市民百年の夢の実現―

本田 信次

富山市の都市政策と都市形成、およびそこでの関係者・市民の思い、活動を、大河描写のごとくまとめた史料価値の高い力作である。富山の「市街地を一体化したい」という政策ビジョン、政策思想が世代を超えて引き継がれ、現在のコンパクトシティ、南北一体化にどのように関連しているかを示した、公的実践性に優れた論文であり、地域政策に勇気と誇りを与える論文であり、掲載すべきと考える。

人口減少・少子高齢化に伴う都市の老いと住宅地地価の変遷

清水 宏樹、大橋 瑞生、谷口 守

「都市の老い」という今日的重要性の高い概念に関して、多数の関連文献をレビューして概念構成を行うとともに、計測方法をきちんと定義し、定量化している。その上で都市の老いと住宅地平均地価の関係、並びに都市特性との関係を4時点の全国データを用いて記述し、政策への知見導出を行った論文である。コンパクトではあるが、完成度の高い、読みやすい論文であり、共有知性と公的実践貢献性からみて高く評価でき、登載に十分値する優れた研究論文である。ただ、データに時点間のダイナミックな構造変化を想定せずに、すべてのデータをプールして因子分析しクラスタリングしている点に疑問が残る。ダイナミックな変化の理由を探ることが政策立案上重要であり、このことが技法の制約から排除されているのは残念である。これらに関してはディープラーニング(DL)技法や統計学もDLに触発されて急速に進化しつつあるので積極的に取り入れることが都市分析分野として重要であると思う。

機能搭載型自動運転車(ADVUS)の利用意向とその要因―搭載機能の違いが及ぼす活動間の比較―

御手洗 陽、安藤 慎悟、谷口 守

最近、移動の革新対象として人と物に加えて、サービスの移動に注目が集まっている。移動販売にとどまらず、医療や教育など従来は不動であったものがニーズのあるところに移動して、あるいは移動中にサービスを提供するものである。そして、このような新しいサービスの担い手として機能搭載型自動運転車(ADVUS)の開発が進められている。本研究は、ADVUS導入のプラスだけでなく、既存施設への悪影響という都市政策上も重要なマイナス効果も視野に入れて、ADVUSの選好や利用意向を探るために、よく設計された広範なWEB調査を行っている。統計分析により、選好構造を明確にしていることが評価できる。中でもサービスや活動が異なると、既存施設との距離は異なる効果を有することなど興味深い知見を獲得しており、共有知性の高い優れた研究であると評価された。

外国人住民に対する防災情報提供方策の現状と課題

小倉 亜紗美、岩本 みさ、神田 佑亮、河村 進一

急増する滞日外国人への災害時情報提供の現実と課題を丁寧に洗い出し、望ましい在り方の提案を行った研究である。平成30年7月豪雨(西日本豪雨)で甚大な被害を被った広島県の呉市、東広島市、福山市において、外国人住民対象のアンケート調査、行政の外国人住民のサポートスタッフと日本語教室主催者にヒアリング調査を行い、考察と提案を行った貴重なレポートである。非常時の外国人への情報伝達手段が確立されていないこと、伝達方法の確立に際しては、外国人コミュニティとの日ごろの連絡や非常時のメッセージとしては「やさしい日本語」が重要であることなどの実践に役立つ知恵が掲載されていて、共有知性に関しても公的実践に関しても高く評価できる。

学生対話の特性からみた高レベル放射性廃棄物処分の問題

上村 祥代、川本 義海

「高レベル放射性廃棄物」問題は、原子力の推進派であろうが反対派であろうが、既に原発を行っている以上避けることの出来ない問題でありながら、その解決困難性の高さ故に、政治も世論も目を背けがちな極めて重大な問題である。この問題についてこの論文では、この問題についての「対話」を喚起し、学生と一般人との差をプロトコル分析した研究論文である。その結果、学生は一般人よりもこの問題を原発以外の視点、とりわけ社会的側面で捉える傾向が強い事が示されている。この知見は、学生を対象に高レベル放射性廃棄物問題についてのリスクコミュニケーション、科学技術コミュニケーションを図る上で有用性が高いことから、掲載決定となった。

高崎市中心市街地における商業機能を持つ施設の歩行者等通行量と土地利用に関する考察

西尾 敏和、森田 哲夫、塚田 伸也

高崎市の中心商業地である高崎駅周辺の歩行者交通量、公示地価、ミクロな土地利用について、中心市街地の変遷・動向を踏まえた上で、統計手法を用いてこれらの3者の関係性の把握した上で、統計分析により歩行者交通量と店舗兼事務所の有無、公示地価と歩行者交通量・店舗兼事務所の有無の間の定量的関係を明らかにしたものである。地価が活性度を総合的に反映していると考えると、これらは今後の高崎市中心商店街の活性化を実施していく上でのヒントになりうるものであり、登載に値すると評価した。

歴史的風致維持向上計画の認定78市町にみる歴史的風致の傾向と特徴

岩本 一将、西村 亮彦、舟久保 敏

歴史まちづくり法で定められた歴史的風致に関して、認定された78市町すべてにアンケート調査を実施し、その構成要素を明らかにするとともに、都市および重点区域の特性との関連性について記述分析したものである。全数調査であり資料的価値が高いこと、導き出された知見の社会的共有知性が高いことは高く評価できる。歴史的風致についての行政では、こうした基礎データの蓄積は重要であり、今後の「歴史的風致行政」に対する政策提言の基盤を提供した論文であり、公的実践性が高く、掲載すべきと判断した。

農地のガバナンスをめぐる合意形成のプロセスデザインの考察―中山間地域における「人・農地プラン」の展開を手がかりに―

豊田 光世、高島 徹、北 愛子、中川 克典

中山間地における「人・農地プラン」での農地集約を主とした地域づくりの合意形成プロセスデザインに関する考察であり、公的実践貢献性の高い論文である。対話構造の「個人↔地域」軸、「過去↔未来」の時間軸を、歴史、経験、ビジョン、妄想といったマトリックスで構造的にとらえ、「合意形成のプロセス」を指標として実践的に評価した論考であり、社会的共有知性が高い。掲載すべき論文と考える。

都市中小河川の流域ガバナンスに向けた市民プロジェクトの展開―神戸市・福田川における環境保全の事例から―

高田 知紀、山口 幸人、山本 直人、塚本 満朗

神戸市に存在する都市中小河川・福田川流域における市民プロジェクトの詳細な、そして読者に勇気を与える魂のこもった記述である。論文の完成度は高く読みやすく説得的であり、共有知性に優れている点がまず評価できる。加えて、流域ガバナンスの構築に向けた多くの知見を有しているという点において、公的実践貢献性においてもすぐれており、掲載すべき論文と判断した。

交通バリアフリーの取り組みに関するプロジェクト間のPDCAおよび障害当事者運動と市民参加の影響

土橋 喜人、大森 宣暁

阪急伊丹駅、福岡市七隈線、仙台市東西線を対象にして、駅及び地下鉄路線のアクセシビリティ(バリアフリー)向上に向けてのPDCAプロセスを、市民参加の梯子(8段階評価)にもとづき、プロジェクト内、同事業者間、プロジェクト間の断面において記述、考察したものである。3つの交通プロジェクトのPDCAについて、プロジェクト内だけではなく、プロジェクト外への波及展開を事後観察評価した、公的実践貢献性の高い論文である。精力的かつ丁寧な調査に基づいた知見は共有知性を有すると評価できる。市民団体など当事者からの働きかけ、交通事業者内の他好事例に学ぶ姿勢、事業検討段階からの市民団体の参加など、好ましい知見が示されており、他事業の参考になる。掲載すべき論文と判断した。