第7巻 第1号

ページ数 タイトル/著者
5~6 Editorial—特集『COVID-19と実践政策学』
藤井 聡
7~12 新型コロナウイルス感染死による余命損失に関する研究
上田 大貴、川端 祐一郎、藤井 聡
13~20 湯布院町の二面性に基づく新型コロナウイルス関連経済支援策の影響調査
綾部 誠
21~32 COVID-19による感染状況が移動に及ぼす影響についての研究―日本における都市と地方のタイミングの差に着目して―
鈴木 春菜、内海 健
33~38 COVID-19感染拡大の季節性と外出自粛の効果に関する研究
上田 大貴、川端 祐一郎、藤井 聡
39~48 2度目の緊急事態宣言がCOVID-19感染拡大速度に与えた影響に関する研究
川端 祐一郎、上田 大貴、藤井 聡
49~61 政府によるCOVID-19対策への新聞報道と首都圏市民の満足度
石橋 拓海、谷口 綾子
63~70 新型コロナウイルス感染症流行期における化粧依頼法の外出行動促進効果
松村 暢彦、一宮 涼花
71~78 かしこいオンラインの使い方を考える―「ゆっくり来る津波」回避のための外出MMのすすめ―
谷口 守、武田 陸、小松﨑 諒子
79~88 地域公共交通の持続性向上とMaaS化を考慮した価値志向型の運賃制度の検討
青木 保親、葉 健人、土井 健司
89~100 地域住民の新規転入者に対するコミュニティ形成意識に関する研究―地区特性に着目し秋田市山王地区・大平台地区・雄和地区を例として―
鈴木 雄、日野 智、前川 聖陽
101~109 防災インフラ投資における成果連動型民間委託契約(PFS)に関する研究
鎌谷 崇史、川端 祐一郎、春日 昭夫、藤井 聡
111~128 「地域住民主体MM」における「自覚的トリガー方式」を通したバスサービス拡充に関する物語描写研究
水川 尭、川端 祐一郎、藤井 聡
129~138 専門学校調理師及び製菓衛生師養成課程における外国人留学生に対する学業定着方略に関する研究
志田 秀史、老田 義人、勝原 修吾
139~154 賑わう都市を創造するフランスの都市政策―なぜフランスの都市計画は機能するのか―
ヴァンソン藤井 由実、金山 洋一、本田 豊、村尾 俊道
155~163 日本の奨学金制度についての公共政策上の観点からの一考察
大金 正知

掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・桑子 敏雄・藤井 聡・森栗 茂一
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)

外部査読委員について:
本号の各論文の査読にあたっては、実践政策学エディトリアルボードより下記の外部査読者の意見を照会し、当該意見を踏まえつつ実践政策学エディトリアルボードにて査読判定を行った。ここに記して、外部査読者各位に深謝の意を表したい。
石田 東生・桑子 敏雄・藤井 聡・森栗 茂一


大庭哲治(京都大学大学院工学研究科)
金森サヤ子(大阪大学COデザインセンター)
川端祐一郎(京都大学大学院工学研究科)
金哲佑(京都大学大学院工学研究科)
金山洋一(富山大学都市デザイン学部)
島村恭則(関西学院大学社会学部)
田中皓介(京都大学大学院工学研究科)
谷口綾子(筑波大学システム情報系)
出口近士(宮崎大学地域資源創成学部)
中原慎二(神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科)
福和伸夫(名古屋大学減災連携研究センター)
松村暢彦(愛媛大学社会共創学部)
(五十音順)
以上

新型コロナウイルス感染死による余命損失に関する研究

上田 大貴、川端 祐一郎、藤井 聡

本研究は、先行研究を踏まえ、余命損失年数(YLL)を評価指標に取り、COVID-19の社会的インパクトを、肺炎やインフルエンザなどの疾病、自殺・交通事故などの死因と比較考察した研究である。先行研究を踏まえ、死亡者数や感染者数といった指標以外にどのような指標が適切であるか、また、余命の損失年数の算出データをもとに、考察と研究の限界について誠実に論じられている。とくに余命損失に関する評価は、倫理的にも難しい課題を含むが、丁寧に考察されており、公的実践性と社会的共有知性に優れており登載すべき論文と考える。

湯布院町の二面性に基づく新型コロナウイルス関連経済支援策の影響調査

綾部 誠

本論文は、我が国の代表的な温泉地である湯布院を対象として、2020年からはじまった新型コロナウイルスの蔓延が地域の観光業にどの様な打撃を与えたのか、そして、その対策のために政府が行った経済支援はどの程度効果的であり、どのような課題があったのか、に着目した調査の結果を報告する論文である。その結果、開業年数の長い宿泊業において、つまり老舗の旅館やホテルにおいて特に、政府支援が十分な水準に至って居なかったことが明らかにされた。同時に、「共助」ができない商店街組合や業種別組合への加入していない商店において深刻な打撃がもたらされていることも示された。観光産業の強靱性を考える政策実践に貢献しうる社会的共有知が提示されていると評価され、掲載可となった。

COVID-19による感染状況が移動に及ぼす影響についての研究―日本における都市と地方のタイミングの差に着目して―

鈴木 春菜、内海 健

コロナ禍における「自粛」がどういうメカニズムで生じているのかを理解することは、コロナ禍の被害を最小化することを目指す上で貴重な情報となる。そもそも、コロナ禍の被害は、感染症による身体的健康被害のみならず、自粛に伴う、精神疾患的被害と経済的被害を含めた総合的なものだからである。そして、この研究では、感染が拡大すると1週間や2週間程度のタイムラグを伴って自粛が加速していくと共に、感染が終息すると同じく同程度のタイムラグを伴って自粛が緩和していく様子が統計学的に明らかにしている。しかも、実際の居住地域の感染拡大状況ではなく、メディアで喧伝される感染拡大状況が、自粛の水準を決して居ることを明らかにしている。こうした知見は、コロナ禍最小化を目指す上で、メディアの報道のあり方の見直しも含めて、貴重な情報となり得る。そうしたことが高く評価され、本誌掲載が決定した。

COVID-19感染拡大の季節性と外出自粛の効果に関する研究

上田 大貴、川端 祐一郎、藤井 聡

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策においては外出削減をはじめとする強力な非医療的介入が用いられているが、この施策がどの程度の感染抑制効果を持ったかについての検証は、社会活動の抑制の負の影響の正しい評価と同じく重要である。本研究は、日本におけるCOVID-19の流行状況と、その要因として考えられる外出削減率及び季節要因との統計的関係を分析し、何が主要因かについての分析考察を進めたものである。慎重な統計的分析の結果、COVID-19の新規感染者数は、従来から存在するコロナウイルスの流行の季節変動パターンと強い正の相関を、気温と強い負の相関を示す一方で、外出削減率との間では有意な相関が観察されなかったという知見を得ている。この結果は共有知性が高く、現在進行中の施策の再考につながるものであり公的実践性からみて評価できる。データ不足による統計的検定力による限界は存在するものの統計学手法と結果は慎重に吟味されていることも評価できる。以上より掲載がふさわしいと判断された。

2度目の緊急事態宣言がCOVID-19感染拡大速度に与えた影響に関する研究

川端 祐一郎、上田 大貴、藤井 聡

本論文は、2021年1月から3月にかけて発令された、新型コロナウイルス感染拡大に対する2回目の緊急事態宣言の効果を検証したものである。緊急事態宣言は社会活動の抑制や経済損失といった大きな副作用をともなうことから、その効果が副作用を上回ると考えられる場合にのみ発令すべきものであるが、これまでのところその効果は十分に検証されていない。本論文でその効果を分析・検討し、緊急事態宣言が十分な効果を得ていない可能性を示したことは、高い共有知性に加えて、COVID-19対策という目下の最重要な課題に関して、時宜を得たまた厳密な議論を惹起する研究として実践貢献性も高い。また統計分析方法や結果の解釈についての、そして異なる結果を示した先行(既往)研究との比較についての多くの修正意見に誠実かつ適切に対応し、膨大な追加分析を短時間に遂行したことも評価できる。以上より、掲載すべきであると評価された。

政府によるCOVID-19対策への新聞報道と首都圏市民の満足度

石橋 拓海、谷口 綾子

新型コロナウイルスは国民にとっても政府にとっても未知なものであったことから、様々な対策が手探りのまま進められた。これからの感染症対策を合理的なものとして検討していくためにも、現時点における政府のコロナ対策を様々な角度から検証、評価しておくことは実践的に重要な意味を持つ。こうした視点で考えたとき、本論文で報告されている、政府のコロナ対策に対する国民の満足度調査データは、今後の感染症対策を考える上で貴重な情報となり得るものと期待できる。とりわけ、政府対策に対して過半数が不満と答え、とりわけ政府に対する信頼を持たない国民においてその不満が大きいという知見は、現状の政府対策を抜本的に見直す必要性を示唆するものであり、その実践的意義は大きい。こうした知見を提供していることが認められ、掲載可となった。

新型コロナウイルス感染症流行期における化粧依頼法の外出行動促進効果

松村 暢彦、一宮 涼花

化粧行動が持つ外出行動促進効果が、「地域の活性化や経済活動の活発化」に関係すると論じる、新しい視点の公的実践をめざした興味深い論文である。少人数対象の実験とはいえ、丁寧にデータを収集し、分析考察した論文であり、社会的共有知性も高い。今後は、「異なる年齢層への効果の検証」が必要であることはもとより、愛媛県という地域的な限界を越えた、より普遍的な理論化の可能性があり、公的実践展開が期待される研究と考え、掲載を決定した。

かしこいオンラインの使い方を考える―「ゆっくり来る津波」回避のための外出MMのすすめ―

谷口 守、武田 陸、小松﨑 諒子

本論文は、COVID-19によって急激に広まった諸活動のオンライン化の危険性に社会的注意を喚起し、新しい都市計画のあり方を提案するとともに、そこでの外出MMの重要性を主張するものである。日本の各都市は欧米諸国の都市と比べて人口密度が高く、公共交通に有利でありながら、政府による無策を原因として自動車依存が高まってしまっているのみならず、その影響はコロナ収束後も継続、より拡大している様子が実証的に指摘されている。さらに、近年進行してきたオンライン市場の拡大による実空間としての「街の破壊」がCOVID-19の感染拡大にともなって加速したオンライン化によってさらに拍車がかっているとの指摘は、極めて重要な実証的指摘である。こうした今後の都市計画実践において貴重な知見と提案が高く評価され、掲載となった。

地域公共交通の持続性向上とMaaS化を考慮した価値志向型の運賃制度の検討

青木 保親、葉 健人、土井 健司

わが国の公共交通は、需要および供給の双方の縮小による持続性が長期的に低下する中、COVID-19による打撃が大きく存続の危機にある。本研究は、公共交通のあり方を考える上で最重要の一つである運賃制度とそれを実現するプロセスのあり方について、広範かつ丁寧な分析考察を重ねて、価値志向型運賃制度とその検討プロセスを相互デザインとして提言したものである。公共交通の広範にわたる大きな効果と持続性の深刻な危機を考えると、現行の包括原価主義による運賃とその決め方は不十分であるとして、利害関係者の多様な価値観、持続性の観点から人々の交通行動とそれを支える交通システムをより望ましいものへと誘導すること、そして近年注目されるMaaSに対応した新たな運賃を包含する価値主義的運賃制度のあり方を提示し、それを導入するにあたって必要となる検討プロセスを相互デザインとしてまとめた研究である。本研究の成果は、今後、各地域で実践的議論を進めていくうえで、共有知性に優れ、検討の進め方についてのヒントも提供していると評価できる。

地域住民の新規転入者に対するコミュニティ形成意識に関する研究―地区特性に着目し秋田市山王地区・大平台地区・雄和地区を例として―

鈴木 雄、日野 智、前川 聖陽

居住地に対する考えが多様化するなかで、地域住民の新規転入者に対するコミュニティ醸成意識を把握することは重要である。強い関わりへのコミュニティ醸成意識への影響要因として、中心部では地域愛着を高めること、住宅地では既存の地域コミュニティ自身を高めること、農村部では地域課題解決が求められることを、数量的に把握した研究である。地道な研究とはいえ、その公的実践性が明確であるとはいえないが、本論のような地道な研究も大切であり、今後の公的実践や研究展開のための、社会共有知として必要と考え掲載することとした。

防災インフラ投資における成果連動型民間委託契約(PFS)に関する研究

鎌谷 崇史、川端 祐一郎、春日 昭夫、藤井 聡

国土の防災・減災・強靭化は大緊急の課題であるが、国や地方政府の財政状況が厳しい中、求められる整備速度を実現しているとはいえない状況が続いている。このような状況認識の下、本研究は、民間資金を防災投資に向けるための提案・提言を行うことを目的としている。社会資本分野への民間資金の導入は活発に実施されつつあるが、防災分野への投資は災害時異常時には大きな効果を発揮するが、日常的利益が見込まれるわけではなく、ここに防災分野への民間資金導入の特徴と難しさがある。本研究は、既存の民間資金活用モデルのレビューを経て、これらと著者らの提案するPFS(成果連動型民間委託契約)を比較検討し、PFSの課題検討も踏まえて提言している。社会的意義の大きな時宜を得た重要な研究であり、共有知性も高く登載すべきだと考える。

「地域住民主体MM」における「自覚的トリガー方式」を通したバスサービス拡充に関する物語描写研究

水川 尭、川端 祐一郎、藤井 聡

京都市における地域住民主体のバス利用促進モビリティ・マネジメント事例に対するヒアリングを丁寧に描写し、解釈を加えた貴重な成果である。丹念に調査し、成果と意義を抽出した物語描写研究である。本論でも指摘しているように、物語は地域で共有され、継承されてこそ、人々の心を揺り動かし威力を発揮するものであるが、本研究は、経緯説明を越えた物語研究をめざして論理展開しており、社会的共有地性も高い。成果は、これからの各地におけるバスサービス拡充を中心とした挑戦へのヒント、励ましと手掛かりとなりうるという意味で、公的実践性に優れており登載すべきであると判断した。

専門学校調理師及び製菓衛生師養成課程における外国人留学生に対する学業定着方略に関する研究

志田 秀史、老田 義人、勝原 修吾

調理師と製菓衛生士養成専門学校におる留学生の学業定着という実践について、3つの専門学校を対象として詳細に調査しその結果を今後の実践の向上に活用することを目指した研究論文であり、当該実践を行う読者の実践の質向上に寄与できるものと期待できる。また、インストラクター、メンターの必要性やマナー教授の有効性は、留学生対象の各種教育機関においても参考となりうるポイントであると期待できることから、公的実践貢献性が認められ、掲載となった。

賑わう都市を創造するフランスの都市政策―なぜフランスの都市計画は機能するのか―

ヴァンソン藤井 由実、金山 洋一、本田 豊、村尾 俊道

本論文は、フランスにおける交通、商業、住宅計画を統合させた広域の都市政策について、地方都市活性化という観点からその今日的意義を、豊富な現地文献資料にもとづき考察しており、わが国の都市計画を見直す上で、社会的共有知性と公的実践貢献性を十分そなえた重要論文と考えられる。とりわけ、コンパクトシティではなく、魅力的な中心市街地をもつ都市を創出することに重点を置いた法整備は、わが国のこれからの都市政策にとっておおいに参考になるものと思われること等が評価され、掲載可となった。

日本の奨学金制度についての公共政策上の観点からの一考察

大金 正知

大学・大学院などの高等教育に対するわが国の奨学金制度を論じた研究である。日本学生支援機構による貸与奨学金は130万人を超える学生に貸与されていて大きな役割を果たしているが、近年、その返済に窮する学生が増加しているという問題も指摘されている。本研究は、日本学生支援機構による奨学金のあり方について、基本となっている貸与方式を歴史的観点や個人が負担すべきだえるというわが国固有の負担認識などを踏まえて、論究したものである。特に、独立行政法人化された後の日本学生支援機構の政策変更に関しては、同機構の中期目標とその評価をデータとして批判的に論考していて、PDCA評価の課題指摘など共有知性が高い。面白く読めるとともに、重要な知見を与えている点で論文の完成度も高く、優れた問題提起であるとともに、改善に向けての提案など公的実践性も高い。以上から登載に値すると評価された。