第7巻 第2号

ページ数 タイトル/著者
173~179 犯罪者・被害者イメージの構造および刑事司法に対する態度の関係性
向井 智哉
181~190 都道府県に着目した非訪問型・訪問型関係人口の獲得実態―活動内容を踏まえたCOVID-19収束後の訪問意向に着目して―
安藤 慎悟、管野 貴文、室岡 太一、谷口 守
191~200 公共施設の再編に向けた複数自治体を横断する「共同利用」の実態に基づく評価手法の提案―奈良県中和・西和地域3市4町の文化施設・運動施設の事例から―
蕭 耕偉郎、髙木 悠里、橋戸 真治郎、西上 魁人、近野 成宏、堤 洋樹
201~208 景観の保全状況が地域愛着に与える影響分析―愛媛県宇和島市旧津島町を対象として―
白柳 洋俊、渡邉 友泰、羽鳥 剛史
209~222 国土計画が地政学的状況に与える影響に関する歴史的研究
坂井 琳太郎、川端 祐一郎、藤井 聡
223~229 SIC大型化における整備への期待と生活質への影響に関する検討―群馬県前橋市を事例として―
塚田 伸也、森田 哲夫
231~239 画像オープンデータ化推進のための人工知能技術を活用した支援システムの構築と実践
屠 芸豪、河野 祐希、浦田 真由、遠藤 守、安田 孝美
241~266 緑の基本計画に流域圏の視点を導入することの意義と課題
荒金 恵太、一ノ瀬 友博
267~281 東日本大震災被災6自治体の広報紙記事にみる復興過程に現れた地域の特性
風間 七海、福島 秀哉、福井 恒明
283~304 インターモーダル国際物流モデルによる日本の港湾政策シミュレーション―内航海運の利用促進と外航コンテナシャトル便の導入に着目して―
柴崎 隆一、若島 久幸、梁 子睿、水野 遊大、杉村 佳寿

掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・桑子 敏雄・藤井 聡・森栗 茂一
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)

外部査読委員について:
本号の各論文の査読にあたっては、実践政策学エディトリアルボードより下記の外部査読者の意見を照会し、当該意見を踏まえつつ実践政策学エディトリアルボードにて査読判定を行った。ここに記して、外部査読者各位に深謝の意を表したい。
石田 東生・桑子 敏雄・藤井 聡・森栗 茂一


伊藤 香織(東京理科大学 理工学部)
大澤 義明(筑波大学 システム情報系)
須﨑 純一(京都大学 大学院工学研究科)
須永 大介(中央大学 理工学部)
高田 知紀(兵庫県立大学 自然・環境科学研究所/兵庫県立人と自然の博物館 )
竹林 幹雄(神戸大学 大学院海事科学研究科)
谷口 守(筑波大学 システム情報系)
羽鳥 剛史(愛媛大学 社会共創学部)
原田 守啓(岐阜大学 流域圏科学研究センター)
円山 琢也(熊本大学 くまもと水循環・減災研究教育センター)
山本 俊哉(明治大学 理工学部)
(五十音順)
以上

犯罪者・被害者イメージの構造および刑事司法に対する態度の関係性

向井 智哉

本論文は、犯罪者・被害者イメージの構造を科学的・実証的手法、すなわち、一般的な心理学的手法に基づいて明らかにしたものである。具体的には、犯罪者は更生可能だという意識が強い程、刑罰をさして厳罰化しなくても良いという意識が増進される一方、被害者に対する共感性が強い程犯罪者の厳罰化を望む傾向が強くなることが示された。また、被害者に対してネガティブなイメージを持つ人々が存在すること等も合わせて示された。こうした実証的知見は、「犯罪」に対処するための諸政策の立案や推進を考える上で、重要な基礎知見として活用可能なものであると期待される。ついては、社会にて共有すべき価値を有するものと判断し、掲載が適当と判断された。

都道府県に着目した非訪問型・訪問型関係人口の獲得実態―活動内容を踏まえたCOVID-19収束後の訪問意向に着目して―

安藤 慎悟、管野 貴文、室岡 太一、谷口 守

現在、東京一極集中を始めとする各社会、経済活動の特定都市部への集中現象が進んでおり、その分散化が最も重要な国家的課題の一つとなっている。そんな中、通信技術の発展・普及に伴い、直接移動を伴う「リアル訪問」のみならずオンラインでのコミュニケーションやふるさと納税などの直接の移動を伴わない非訪問型の交流、いわば「仮想訪問」が拡大してきている。最終的には「リアル訪問」の拡大が地域活性化において最も重要であるが、そのためにも仮想訪問の拡大やそこからリアルな訪問への移行策は重要である。本論文はそうした視点に立ち、リアル訪問と仮想訪問の関連を空間的な広がりを考慮しつつ行われた実証研究であり、双方を見据えた地域活性化策、分散化対策を考える基礎研究の第一歩となるものとして十分な公的実践貢献性が認められたことから、掲載と判断された。

公共施設の再編に向けた複数自治体を横断する「共同利用」の実態に基づく評価手法の提案―奈良県中和・西和地域3市4町の文化施設・運動施設の事例から―

蕭 耕偉郎、髙木 悠里、橋戸 真治郎、西上 魁人、近野 成宏、堤 洋樹

本論文は、公共施設の自治体にまたがる広域共同利用を考慮して、その再編統合をめざした、現況評価に関する実践的な試みであり、適時を得た研究課題である。住民行動というボトムアップ視点を積極的に組み込んだ評価手法も新しい市民連携スキームとして解釈できる。奈良県の3市4町の広域連携による既存の文化施設、運動施設の再編に向けての基礎資料として、現状における各施設の共同利用を中心とした利用実態を把握することが必要と考える。また、本稿では 3 市 4 町に設置されている 12 の文化施設・18 の運動施設を 対象として、今後、複数自治体における広域連携による共同利用を前提とした施設の再編に向けて、住民アンケート調査に基づく利用実態と満足度・共同利用評価に基づいた評価方法を提案している。施設運営や経営に関する実際的課題の考慮など課題は残されているものの、提案された方法には一定の妥当性と共有知性があると評価された。

景観の保全状況が地域愛着に与える影響分析―愛媛県宇和島市旧津島町を対象として―

白柳 洋俊、渡邉 友泰、羽鳥 剛史

本論文は景観の保全と地域愛着の関係を「地域の記憶の想起」をキーワードに論じたものであり、興味深いテーマである。景観保全度が高いほど、記憶の想起量が多く、その結果、地域愛着が高まるという仮説を、景観の保全状況の定量化Time-depthと記憶想起量との相関から、定量的に検証しており、その結論は妥当性と実践的価値を持つものと高く評価できる。以上の点で、本誌に掲載すべき論文と判断する。

国土計画が地政学的状況に与える影響に関する歴史的研究

坂井 琳太郎、川端 祐一郎、藤井 聡

本論文は、防衛上や軍事上の安全保障論を中心とする地政学理論と国土計画論の関係を論じたものである。戦後の国土計画論は安全保障論にほとんど踏み込んでいないという問題意識のもと、主に明治以降の地政学理論に関する文献を調査する事を通して、地政学的状況が交通を中心とする国土計画に本質的かつ依存的な影響を受けているか否かを明らかにしたものである。そして現代においても安全保障計画は国土計画と連動させながら策定・運用することが望ましいことや、その場合に重要となる戦略要素について、地政学理論に基づき提案を行っている。国土計画議論にある意味では不十分であった点に関する指摘と提案であり、国土計画のあり方議論への貢献が大きいこと、広く既存文献を調査していて簡潔に要領よく整理紹介していることなど共有知性に優れていて登載すべき価値を十分に有すると評価できる。

SIC大型化における整備への期待と生活質への影響に関する検討―群馬県前橋市を事例として―

塚田 伸也、森田 哲夫

財源制約のために遅々として進まないインフラ整備の中で、比較的安価に設置可能なスマートインターチェンジ(SIC:ETC専用インターチェンジ)の導入は、重要な公共政策の一つとなっている。そして、近年では当初対応していなかった「大型車」対応が、SICにおいて進められる様になってきている。この論文は、このSICの大型化に対して、周辺住民がどの様な意識を形成しているのかを明らかにした実証論文である。実証研究の結果、周辺住民はSIC大型車対応化整備によって、地域が経済的に活性化すると同時に、防災力が向上するという期待を形成していると同時に、(全般的な生活の満足度を意味する)総合的なQOL評価にも肯定的な影響を及ぼしていることが明らかとなった。こうした知見は、SICの大型車対応化整備が、周辺住民に肯定的に受け取られ、かつ、生活の満足度の向上に貢献する事を意味しており、したがって、同整備の推進を促すものである。さらには、その推進においてはこうした側面を強調することでさらに、その事業効果を増進させることが可能である事を示すものであり、十分な公的実践貢献性があると評価され、掲載可となった。

画像オープンデータ化推進のための人工知能技術を活用した支援システムの構築と実践

屠 芸豪、河野 祐希、浦田 真由、遠藤 守、安田 孝美

誰もが自由に活用できる「画像データ」は大変貴重なものである。例えば、風景や町並みの写真データは、当該地域をアピールするポスターやパンフレットの素材として自由に使うことができる。しかし、「顔」が映っている写真は、肖像権の問題があり、これまでは自治体はそうした画像データを誰もが使える「オープンデータ」として公開することが極めて困難であった。その結果、例えば特定の自治体が自らの自治体をアピールするために、写真データをオープンデータ化することができず、自治体アピールが円滑に進められないという難点があった。この研究ではそうした実践的課題に着目し、人工知能技術を活用して「顔」を認識し、それを自動的にモザイク処理をしてオープンデータ化を可能とすると同時に、人の顔以外の対象物をカテゴリー化して自動的にラベリングするという支援システムを開発し、その有効性を確認している。この研究で提案されているシステムは実務に活用可能であり、その公的実践貢献性は高い。ついては、本論文を高く評価し、掲載することとした。

緑の基本計画に流域圏の視点を導入することの意義と課題

荒金 恵太、一ノ瀬 友博

地域政策における最重要項目の一つである治水行政において、近年では堤防やダムなどによる旧来型の治水事業とは異なり、流域全体で洪水に対する強靱性を高める「流域治水」の重要性が認識されるようになってきている。そんな流域治水においては、河川周辺の流域における公園緑地の活用が必要である。そしてそうした公園緑地のあり方を行政的に定めているのが「緑の基本計画」(都市緑地法第4 条)であることから、流域治水の推進には、緑の基本計画に流域治水の概念の導入していくことが必須となる。本論文はそうした認識に立ち、鶴見川流域の事例を取り上げつつ、緑の基本計画において「流域圏」の視点を導入することの有効性や実現可能性を改めて示し、今後、他地域において同様に緑の基本計画に「流域圏」の視点を導入していく事を促進せんとするものである。ついては全国の流域治水能力の向上という公的実践に貢献しうるものと評価され、掲載が妥当と判断された。

東日本大震災被災6自治体の広報紙記事にみる復興過程に現れた地域の特性

風間 七海、福島 秀哉、福井 恒明

津波被害が最も激甚だった岩手県の6市町の自治体広報誌を収集し、統一的視点・方法により丁寧に分析記述した論文であり、大震災からの復興過程における課題認識の推移が幅広く了解できるなど共有知性は評価できる。本論の手法は、多くのスタークホルダーが参画する復興まちづくりにおいて、日常に関する詳細な地域の特性を把握する手段としての有効性、発展性があると考えられる。また、分析方法の提案とその成果の一部共有は研究行為の実践に資するという点で実践貢献性も存在すると思われる。以上の点から、登載に値すると評価した。

インターモーダル国際物流モデルによる日本の港湾政策シミュレーション―内航海運の利用促進と外航コンテナシャトル便の導入に着目して―

柴崎 隆一、若島 久幸、梁 子睿、水野 遊大、杉村 佳寿

日本の国益確保増進において、海外との貿易コストの縮減は極めて重大な課題である。そうした視点に立った場合、国際海上コンテナ貨物輸送における「国内内航フィーダー輸送」を充実させていくことは、釜山港などの外国港湾への依存度を低めて国内港湾での「自足」度を高めることから、国益増進に繋がる事が期待されている。また、欧州等との基幹航路を持つ東南アジアなどの港と国内港湾との間の「外航コンテナシャトル便」の充実は、欧州等と日本の間の輸送コストの低減に貢献し、同様に国益増進に繋がるものと期待されている。本論文はこうした点に着目し、それらの施策の推進がどれ程の有効性を持つのかを、インターモーダル国際物流シミュレーションモデルを用いて定量的に明らかにしたものであり、国益に資する港湾行政の展開という公的実践に大いに貢献しうるものと判断され、掲載が決定された。