第6巻 第1号

ページ数 タイトル/著者
5~12 地方都市の通勤者のエコ通勤に対する態度の変容と規定要因に関する一考察
市森 友明、西垣 友貴、山田 忠史、大門 健一
13~22 政府調達における柔軟な予定価格(落札上限価格)の算定に関する一考察
鈴木 良祐
23~31 地域の環境をケアする主体形成の鍵―日豪の市民活動事例にみる感性を磨く対話とその条件―
前川 智美
33~42 観光地におけるインフラ整備の中期効果の検討 ―出雲大社参詣道の整備を事例として―
藤原 昇汰、鈴木 春菜、永野 慶太
43~55 三鷹駅北口パブリックスペース利活用社会実験2019にみる「地域にふさわしいにぎわい」探求のための質的調査・分析手法の提案
髙森 真紀子、吉田 秀生、木口 智広、別府 知哉
57~68 愛知県豊田市における河川関連施策と地域活動の継続性の関係―近自然河川工法の導入と水辺愛護会の展開に着目して―
網倉 朔太郎、福島 秀哉
69~78 地元店舗での買い物促進に向けたコミュニケーション施策の検討―店舗主・町民対象ワークショップと全国WEB調査による動機付け効果の計測―
河合 晃太郎、谷口 綾子、小西 信義、宮川 愛由、佐藤 真人
79~86 つくば市における宅配便の利用実態と再配達依頼の規定因―配達人とのコミュニケーションに着目して―
宮谷台 香純、谷口 綾子
87~94 交通環境への満足度とクルマ運転動機が交通行動とBMIに与える影響―全国PT調査を用いて―
麓 国広、谷口 綾子
95~102 公共政策を巡る集団討論が保護価値の形成に及ぼす影響―集団極化の緩和に向けた話し合いの方法の検討―
羽鳥 剛史、深田 優之介
103~108 国民被害の最小化を企図した新型コロナウイルス対策における基本方針の提案
藤井 聡、宮沢 孝幸、高野 裕久、桑原 篤憲、清野 純史、矢守 克也、柴山 桂太、大西 正光、山田 忠史、川端 祐一郎、 中尾 聡史
109~114 高齢者と非高齢者の2トラック型の新型コロナウイルス対策について
木村 もりよ、関沢 洋一、藤井 聡

掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・桑子 敏雄・藤井 聡・森栗 茂一
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)

地方都市の通勤者のエコ通勤に対する態度の変容と規定要因に関する一考察

市森 友明、西垣 友貴、山田 忠史、大門 健一

「通勤交通手段の自動車から公共交通手段へのモーダルシフト」を導く「通勤モビリティ・マネジメント」は、地域活性化策として極めて重要な取り組みの一つである。かねてよりこの問題意識の下、様々なタイプの通勤モビリティ・マネジメントが提案され、実証的にその有効性が検証されてきた。この研究では、自動車依存率の高い地方都市における一法人組織において、従業者に自動車からのモーダルシフトを促すという基本方針を法人として策定するというアプローチを提案し、その有効性をそのメカニズムと同時に明らかにしている。同アプローチは他法人においても活用可能なものであることから、十分な公的実践貢献性があると認められ、登載決定となった。

政府調達における柔軟な予定価格(落札上限価格)の算定に関する一考察

鈴木 良祐

公共調達で一般に行われる「入札」において決定した価格は、当然ながら、事業の実際の実施において拘束的な意味を持つ。しかし、その拘束性が完全なものであり、一切の柔軟性をもたぬものであった場合、様々な弊害が生ずることとなる。そもそも、公共調達が行われる公共事業には常に「不確実性」が混入しており、その事業を実際にやってみた始めて分かることがあり得るからだ。ところがこれまでの公共調達制度については、行政における「予算」の仕組み上、そうした柔軟性は忌避されることが一般的であった。この研究はその点に着目し、公共調達における柔軟性が如何に必要なのかを明らかにした上で、それを確保するための方途についての考察を加えている。十分な公的実践貢献性を持ち、かつ、その内容も十分な社会的共有知性を確保していると判断し、掲載を決定した。

地域の環境をケアする主体形成の鍵―日豪の市民活動事例にみる感性を磨く対話とその条件―

前川 智美

オーストラリアの「ランドケア運動」と日本の「いい川・いい川づくりワークショップ」における、対話の状況・効果、そしてそれをもたらす様々な実践的工夫の共通点を探りだした優れた研究である。対話が、単なる手法、技術ではなく、それ自体が、地域づくり、ひいては思慮ある人づくり活動であることがわかり、興味深い。実践を具体的に向上させる共有知を含んでいるという点においての実践貢献性が高いと評価できる。論文も完成度が高く読みやすい。搭載すべき論文と判断した。

観光地におけるインフラ整備の中期効果の検討 ―出雲大社参詣道の整備を事例として―

藤原 昇汰、鈴木 春菜、永野 慶太

この研究では、出雲大社の参詣道整備によって、当該地区の観光産業にどの程度の効果があったのかを、長期的視点からアンケート調査と一般メディア情報を活用しつつ評価し、様々な効果が得られた事を明らかにしたものである。すなわち、観光地としての出雲大社周辺における消費金額や来訪満足度が共に、10年後において確実に上昇していることが示されたと同時に、出雲大社地区が観光地として雑誌等で取り上げられるページ数や同じく雑誌等で取り上げられる飲食店舗数がおおよそ10年で3倍程度に拡大していることを実証的に示している。こうした長期的かつマクロなインフラ整備効果評価は既往研究においても限られており、その知見はインフラ整備という公的実践における諸判断の合理化に大いに貢献しうるものである。この点が高く評価され、掲載となった。

三鷹駅北口パブリックスペース利活用社会実験2019にみる「地域にふさわしいにぎわい」探求のための質的調査・分析手法の提案

髙森 真紀子、吉田 秀生、木口 智広、別府 知哉

三鷹駅北口のかたらいの道における、道路空間の新しい使い方を追求した社会実験において、イベント会場の利用状況と利用者による評価などをテキストマイニング等を用い、精力的かつ綿密に観測し、その結果を用いて「地域にふさわしいにぎわい」の質の表現方法の開発を試みた人中心のストリートデザインに関する実証研究である。賑わい、ウオーカブルというこれからの魅力ある街づくり、そこでの道路空間のあり方を規定する重要な概念の評価に挑戦したものであり、有用性の高い研究である。また、大変な調査を実施し、その分析から共有すべき多くの知見を得ており、掲載すべき論文と判断した。

愛知県豊田市における河川関連施策と地域活動の継続性の関係―近自然河川工法の導入と水辺愛護会の展開に着目して―

網倉 朔太郎、福島 秀哉

愛知県矢作川流域における市民主体の水辺環境維持活動と矢作川関連施策、並びに豊田市のコミュニティ活動との連動に関して、活動の持続的維持を大きな課題として認識しつつ、総合的なまちづくりに位置づけることの重要性、近自然工法などの政策との関連を報告した貴重なレポートである。公的実践貢献性からも共有知性からも評価された。

地元店舗での買い物促進に向けたコミュニケーション施策の検討―店舗主・町民対象ワークショップと全国WEB調査による動機付け効果の計測―

河合 晃太郎、谷口 綾子、小西 信義、宮川 愛由、佐藤 真人

地域経済・地域産業の活性化において、各地の人々が、居住地域外の大資本によって投資して作られた大型店舗等ではなく、「地元店舗」で買い物を行う習慣を身につけることは極めて重要な要素である。その認識から、買い物店舗を地元店舗に変容するための働きかけを促す取り組みがこれまでにもいくつか検討されてきたが、この研究はそうした公的実践に大いに貢献をなすものと認められた。特に店舗側の取り組みの重要性を明らかにすると共に、いわゆるマーケット対象にどの様にアプローチすべきかの基礎的な実証知見を提供しており、実践政策学の視点から一定水準以上の論文であると評価され、掲載となった。

つくば市における宅配便の利用実態と再配達依頼の規定因―配達人とのコミュニケーションに着目して―

宮谷台 香純、谷口 綾子

宅配便の再配達についての茨城県つくば市における意識調査結果等を用いた現象記述とそれに基づいた提言を行っている。E-Commerceの急速な拡大による宅配ビジネスへの負荷の急増が配送物流の成立性に大きな影響を及ぼしている。特に今般のCOVID-19によってさらにその脅威が明らかになっている現在、重要な研究である。この問題に切り込みその様相を明らかにするとともに、提言を志向する研究であり、登載に値すると評価された。

交通環境への満足度とクルマ運転動機が交通行動とBMIに与える影響―全国PT調査を用いて―

麓 国広、谷口 綾子

BMIと交通行動、生活・交通意識との関係を、社会心理学的、MM的アプローチにより解明した論文である。人々の交通行動が健康の一指標であるBMIに有意な影響を与えており、かつ、その構造には性差があることが示された。女性には、クルマの使いやすさの認知や運転動機の情緒尺度などの心理尺度が直接的に健康指標にきいており、クルマ送迎の時間コストなど、クルマへのポジティブなイメージを払拭するような情報提供やイメージ戦略が有効と提示している。成果は面白く、実践的に有用であり、共有知性に秀でた論文であり、登載すべきと判断した。

公共政策を巡る集団討論が保護価値の形成に及ぼす影響―集団極化の緩和に向けた話し合いの方法の検討―

羽鳥 剛史、深田 優之介

公共政策の現場では、住民討議が重要な位置を占める時がしばしばある。とりわけ、特定事業の賛否や選択すべき代替案が割れる局面においては、討議を通した合意形成が枢要となる。この研究では、そうした対立的議題についての討議の過程において、いたずらにどちらが正しいかの対立を促す討議を加速すれば、人々の思考が停止し、意見が硬直化していくというリスクがあることを、「保護価値」という概念を活用しつつ実証的に明らかにしている。同時に、対立を促す討議を加速するのではなく、そもそも、それぞれの案にどの様な政策的効果があるのか、どういうメリットとデメリットがあるのかの議論を深めることで、柔軟性、意見変容可能性が高まり、合意形成が促進され得ることを示している。こうした知見はいわゆる「熟議」を実質的に促す上で大いに活用可能なものであり、実践政策学の視点から高く評価できる成果であると評価され、掲載となった。

国民被害の最小化を企図した新型コロナウイルス対策における基本方針の提案

藤井 聡、宮沢 孝幸、高野 裕久、桑原 篤憲、清野 純史、矢守 克也、柴山 桂太、大西 正光、山田 忠史、川端 祐一郎、 中尾 聡史

COVID-19対策という目下、緊急性の非常に高い政策の基本方針を専門分野の異なる研究者が集結し、短期間に多くのデータを収集し、それをもとに論理構築し、その結果を政策提言したものである。いわゆる研究論文ではないかもしれないが、現在の状況を考慮した時、このような態度と行為は実践政策学の理念に通ずるものであるとともに、展開されている分析・考察・提言は共有知性からみても評価できる。政府方針に対しての本研究の提言の優位性を主張する箇所においては実証的論証が必ずしも十分ではないという課題は有しているが、データが豊富に存在していないこと、緊急提言としての性質を考慮すると大きな欠陥にはならないと考えたい。新しいタイプの論文であり、公的実践への貢献性を考えた場合に、登載すべき論文である。

高齢者と非高齢者の2トラック型の新型コロナウイルス対策について

木村 もりよ、関沢 洋一、藤井 聡

COVID-19への対策として高齢者と非高齢者の2トラック型の体系を提案するという、時宜にかなった公的実践貢献性の高い論文である。時間がない中、分野を超えた広範な文献調査を著者チームが実施し、多様な意見を踏まえた上で、政策を社会に訴えるという点に関しては、共有知性に秀でた論文と評価したい。登載すべきと判断した。