第9巻 第1号

ページ数 タイトル/著者
5~13 新型コロナウイルス感染症における報道フレーミング
劉 放、竹村 和久
15~25 地方都市の交通まちづくりにおける新交通システム導入議論の継続に住民意識が及ぼす影響についての研究
辻辺 貴晃、鈴木 春菜
27~35 自治体またぎ情報を組み込んだ医療サービス指標
堀越 卓、一井 直人、小又 睴広、下津 大輔、大澤 義明
37~52 地方自治体行政の視点からみたJR地方ローカル線の再生に関する研究
中川 大、森 雅志、藤井 聡
53~63 医療現場での精神障害者に対する意思決定支援の話合いと看護師の役割―合意形成の視点からの考察―
吉武 久美子、妹尾 弘子
65~69 企業倫理の確立に関する研究
加藤 淳
71~81 価値共創理論から捉えた今後の公共空間マネジメント実践の課題と展望
笹尾 和宏、大庭 哲治
83~100 保育園等における外国にルーツをもつ子どもの受入れの現状と課題―コミュニケーション補助ツールの提案―
小倉 亜紗美、田村 麻歩、神田 佑亮、八島 美菜子
101~111 津波浸水想定区域内における庁舎の再整備事業に関する研究―静岡県焼津市と静岡市清水区における建築的工夫と事業検討フローに着目して―
村田 萌々香、五十石 俊祐、太田 尚孝
113~121 人口減少社会における低未利用地のグリーンインフラへの転換による雨水流出抑制効果とその費用便益分析
中根 大斗、松行 美帆子
123~133 日本のCOVID-19感染拡大期における移民・難民女性のスティグマと支援―あるFaith-Based Organizationの取り組みの質的調査研究―
福嶋 美佐子

掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・桑子 敏雄・藤井 聡・森栗 茂一
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)

外部査読委員について:
本号の各論文の査読にあたっては、実践政策学エディトリアルボードより下記の外部査読者の意見を照会し、当該意見を踏まえつつ実践政策学エディトリアルボードにて査読判定を行った。ここに記して、外部査読者各位に深謝の意を表したい。
石田 東生・桑子 敏雄・藤井  聡・森栗 茂一


伊藤 亜都子(神戸学院大学 現代社会学部)
岩倉 成志(芝浦工業大学 工学部)
金井 昌信(群馬県大学 大学院理工学府)
川端 祐一郎(京都大学 大学院工学研究科)
柴山 桂太(京都大学 大学院人間・環境学研究科)
高野 裕久(京都先端科学大学 国際学術研究院)
九十九 綾子(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
西田 貴明(京都産業大学 生命科学部)
村尾 俊道(元京都府)
依藤 光代(地域計画建築研究所)
(五十音順)
以上

新型コロナウイルス感染症における報道フレーミング

劉 放、竹村 和久

本論文は、メディアの報道が新型コロナウイルス感染症のリスクに関する市民の認識にバイアスをもたらしている可能性を実証的に示したものである。こうした報道のバイアス、すなわち、客観性の欠如は、緊急事態宣言や自粛要請などの政府の感染症対策に対する世論形成にも大きな歪曲的影響を与え得るものであり、その存在を客観的に明らかにする基礎的研究は、適正な感染症対策についての世論形成についての公的実践への貢献性が極めて高い。ついては、本誌に相応しい論文であると高く評価され、掲載すべしと判断された。

地方都市の交通まちづくりにおける新交通システム導入議論の継続に住民意識が及ぼす影響についての研究

辻辺 貴晃、鈴木 春菜

本研究は、JR西日本が運行する城端線・氷見線(富山県)と宇部線(山口県)の二つの事例を取り上げ、モードや住民活動など状況の違いを可能な限り考慮したうえで、住民意識調査を実施し分析している。その結果、立地適正化計画の受容意識や公共交通の重要性認知が、新交通システム受容意識に影響を及ぼし、宇部市では公共交通を利用している人ほど新交通の受容意識が低いと結論づけている。状況の異なる地域との地域計画の比較検討の上での住民アンケート分析は、立地適正計画など地方自治体の新た政策検討に資するものと判断し、登載が妥当と判断された。

自治体またぎ情報を組み込んだ医療サービス指標

堀越 卓、一井 直人、小又 睴広、下津 大輔、大澤 義明

医療行政において、それぞれの地域の「医療サービス水準」の指標化は重要な意義がある。その中で、従来は各自治体の医療機関数という尺度がしばしば活用されてきたが、現実には居住する自治体のみならず、近隣の自治体の医療機関を利用するのが実態である。ついてはこの研究ではそうした点に着目し、近隣自治体の医療機関数の多寡が、当該自治体の医療サービス水準にも反映する指標を提案し、その具体的活用方法について論ずるものである。ここで提案されている尺度はシンプルなものでありながら旧来の尺度よりもより実態に即したものとなっており、その提案研究の公的実践貢献性は高い。ついては本誌掲載が適当と判断された。

地方自治体行政の視点からみたJR地方ローカル線の再生に関する研究

中川 大、森 雅志、藤井 聡

わが国の大きな政策課題となっているJR赤字線の再生問題について、実態分析に基づいた政策提言を志向する論文である。実態分析では、JR線と地方の民間鉄道や3セク鉄道に提供サービスや経営状況についての比較分析とその経時変化を丁寧に行い、共有知性の高い知見を導いている。また、これらの結果に筆者らの長年にわたる鉄道・公共交通政策研究の成果が加わり政策提言も説得力あるものとなっている。公的実践貢献性と共有知性から見て本論文は登載に値すると評価された。

医療現場での精神障害者に対する意思決定支援の話合いと看護師の役割―合意形成の視点からの考察―

吉武 久美子、妹尾 弘子

本論文は、医療現場における精神障害者による意思決定のための話合いについての現状を整理した上で看護師の役割を示している。患者の意思を尊重した意思決定支援が重視されてきている中での難しい現場実践に対して、本論文で導出された結論は公的貢献性が高いといえる。さらに、本論文では患者による意思決定能力の差が大きいとされる精神障害者の話合いに関して、これまで明確ではなかった看護師の役割について具体的に示されており、社会的共有知性が高い。以上より登載を決定した。

企業倫理の確立に関する研究

加藤 淳

本論文は短期利益追求主義の強まり等を背景とした、わが国の企業倫理の低下問題に着目し、「企業倫理の制度化」の方向を探る論述研究論文である。わが国の企業不祥事に焦点を当てながら、企業倫理に関する先行研究の論点整理に基づく文献レビューを行い、組織内部に制度を設けるだけでなく、制度を有効に機能させる「組織の倫理風土」が必要であることを改めて指摘するものとなっている。この結論、ならびに、この結論にかかわる各種の既往研究をレビューし、整理し、その上でその結論を導いたというプロセスについての論述が、今後の企業倫理の確立に向けた各種の公的実践に貢献しうる可能性が認められるという点から、掲載することが適当と判断された。

価値共創理論から捉えた今後の公共空間マネジメント実践の課題と展望

笹尾 和宏、大庭 哲治

本論文は、公共空間のプレイスメイキング、すなわち、都市や地域における様々な空間を、その地に拘わる人々や共同体が共有し、その秩序を形成し、維持し、高度化していく「公共」空間としていく社会的活動の新たな方向性を、価値共創理論等の文献調査とそれに基づく考察を通して見いだそうとするものである。その結果、「プロバイダーと顧客の関係についてのサービス・ロジックの活用可能性を見出すことがプレイスメイキングの理論的課題であること」を明らかにすると共に、「管理者と利用者との直接的相互行為に着目し、利用者がそこで何ができるかを直接的に明示しない無主性の高い公共空間マネジメントが 、私的行為の拡張に貢献しうる」という事を、事例を通して明らかにした。こうした知見は公共空間の形成、維持、高度化という公的実践に大いに貢献しうるものであると判断し、掲載が適当と判断された。

保育園等における外国にルーツをもつ子どもの受入れの現状と課題―コミュニケーション補助ツールの提案―

小倉 亜紗美、田村 麻歩、神田 佑亮、八島 美菜子

外国人の在留資格の緩和、技能実習制度の改革、難民認定制度の改変など、外国人の滞在、居住が今後急速に増加することが予想される中、政策構築のうえで、また現場での実践支援として貴重な研究である。実施が困難な調査を関係者の理解・協力を得て実施し、貴重なデータを得ていること、その結果を丁寧に分析記述し報告していることは研究実践の在り方として高く評価できる。その結果、多数得られた知見は共有知性に優れている。また、コミュニケーションツールの作成と実施、改良は公的実践としても評価できる。以上より登載を決定した。

津波浸水想定区域内における庁舎の再整備事業に関する研究―静岡県焼津市と静岡市清水区における建築的工夫と事業検討フローに着目して―

村田 萌々香、五十石 俊祐、太田 尚孝

津波浸水想定区域内に立地する市庁舎の「津波災害時の強靱性」確保に向けた再整備に着目した、具体的なケーススタディの報告に基づく実践論文である。二つのケーススタディに着目し、庁舎再整備により津波浸水想定区域内で避難場所を確保可能である事例があることを明らかにしている。あわせて、庁舎機能の強靱化を図った上でもなお、平常時の利便性を損わずに済んでいる事例があること、庁舎の整備場所や構想を検討する段階で住民参加を推進することにより、合意形成の円滑化が図れている事例があることを確認している。こうした事例報告とそれに基づく考察は、全国の自治体の庁舎の災害に対する強靱化を図る上で参考にすることが可能であるとの判断の下、公的実践貢献性、社会的共有地性が評価され、掲載となった。

人口減少社会における低未利用地のグリーンインフラへの転換による雨水流出抑制効果とその費用便益分析

中根 大斗、松行 美帆子

国土政策、都市計画、強靭化、Carbon Neutral(CN)、Nature Positive などの多くの政策領域において、最近、多くの注目を浴びているグリーンインフラ(GI)の都市域における導入政策として、空家の積極的転換を提言する研究である。方法としては、GI化による雨水流出抑制効果と、逸失される費用として固定資産税を定量的に推計し、比較分析している。予想に反して狭義の限定的な経済比較結果はGI化を支持するものではないが、これをむしろ積極的にとらえて評価研究のさらなる充実の必要性なども指摘しており、登載して読者に共有すべきであると評価された。

日本のCOVID-19感染拡大期における移民・難民女性のスティグマと支援―あるFaith-Based Organizationの取り組みの質的調査研究―

福嶋 美佐子

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)パンデミックにおいて、社会的に脆弱な立場の人が既存のセーフティネットから疎外される。ドメスティック・バイオレンス(DV)等の被害者である移民・難民の女性の場合は、どのようなスティグマを負ったのか、その被害の実態を分析し、移民・難民の女性を支援するFaith Based Organization(FBO)の運営、役割について論じたものである。日本社会に対する重大な問題提起を行っている論文として、共有知性と公的実践性の双方から評価し登載を決定した。