第9巻 第2号

ページ数 タイトル/著者
141~150 地方都市におけるネットショッピングの利用と居住地特性との関連性―品目別の実店舗との支出金額の比率に着目して―
大畑 友紀、小寺 啓太、氏原 岳人
151~161 デマンド型交通の予約記録の分析による予約期限に関する考察―のるーと「壱岐南」を対象として―
外山 友里絵、中村 文彦、田中 伸治
163~176 調剤外部委託化による薬剤師の対人業務強化と地域活動参画への影響
加茂 薫、大庭 哲治
177~187 人々の意識・行動の選択に影響を与えるデジタルゲームの要素
上村 祥代、竹本 拓治、中西 孝平
189~198 幹線鉄道整備に関する財源関係諸課題の整理と主要論点の抽出―表面的な受益者負担論を脱却した整備財源の方向性―
波床 正敏
199~216 都市計画の規制緩和を伴う都市開発事業によるジェントリフィケーションの発現に関する研究―東京都における都市再生緊急整備地域の事例―
松行 美帆子、山口 大輔
217~225 自動運転システムが地域のシビックプライドに与える影響
岩田 剛弥、谷口 綾子、渡辺 健太郎
227~234 地方自治体における公共交通施策推進体制についての研究―中国地方を例として―
辻辺 貴晃、鈴木 春菜
235~243 新たな交通サービスとパーソナルモビリティの受容に関する検討―群馬県前橋市におけるアンケート調査を事例として―
塚田 伸也、坪山 翔多、森田 哲夫
245~258 観光依存が都市経済にもたらす脆弱性に関する質的研究―コロナ禍初期の現場事業者の証言を手がかりに―
畑 喬介、川端 祐一郎、藤井 聡
259~275 東日本大震災の長期的なマクロ経済被害に関する研究
遠山 航輝、加藤 真人、川端 祐一郎、藤井 聡

掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・桑子 敏雄・藤井 聡・森栗 茂一
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)

外部査読委員について:
本号の各論文の査読にあたっては、実践政策学エディトリアルボードより下記の外部査読者の意見を照会し、当該意見を踏まえつつ実践政策学エディトリアルボードにて査読判定を行った。ここに記して、外部査読者各位に深謝の意を表したい。
石田 東生・藤井 聡・桑子 敏雄・森栗 茂一・柴山 桂太


伊藤 香織(東京理科大学 創域理工学部)
川端 佑一郎(京都大学 大学院工学研究科)
神田 佑亮(呉工業高等専門学校 環境都市工学分野)
小池 淳司(神戸大学 大学院工学研究科)
田中 皓介(京都大学 大学院工学研究科)
羽鳥 剛史(愛媛大学 社会共創学部)
藤井 さやか(筑波大学 システム情報系)
牧村 和彦(一般財団法人計量計画研究所)
松村 暢彦(愛媛大学 社会共創学部)
吉武 久美子(東京女子医科大学 看護学部 )
(五十音順)

地方都市におけるネットショッピングの利用と居住地特性との関連性―品目別の実店舗との支出金額の比率に着目して―

大畑 友紀、小寺 啓太、氏原 岳人

この研究では、インターネット利用者を対象としたアンケート調査結果を用いて、実店舗とネットショッピング(以下NS)に支出金額の割合と品目、利用理由に関する分析を行っている。そして、実店舗で買えるものをNS
で買って、それを通して実店舗での買い物が減る、という代替補完関係が必ずしもあるという訳では無く、実店舗では購入できないものをNSで入手している傾向が強いという、意外な傾向が存在していたことを明らかにしている。ただし、一部には実店舗に行くことを回避するために全品目の買い物をNSで済ましている消費者が存在することも明らかにしている。こうした実証的知見は、NSも加味した実店舗に関する都市政策を考える上で重要な基礎的知見となるとの認識の下、掲載が適当と判定することとした。

デマンド型交通の予約記録の分析による予約期限に関する考察―のるーと「壱岐南」を対象として―

外山 友里絵、中村 文彦、田中 伸治

近年、注目が集まるとともにAIによる配車計画などの技術進化もあり、実施例が急増しているデマンド交通の予約記録を丁寧に分析し、実践への知見を得ようとした研究である。重要であるにも関わらず、ほとんど明らかにされていない予約形態に着目した実証研究であり、貴重なデータを丁寧に分析し、今後のサービス設計に対する数多くの示唆を提供するなど、共有知性に富んだ実践的知見を少なからず導いている点など高く評価できる。考察・記述は良く構築されていて、登載に値すると評価する。

調剤外部委託化による薬剤師の対人業務強化と地域活動参画への影響

加茂 薫、大庭 哲治

日本政府は今、「薬剤師」をより患者や地域住民に深く関わる事を企図して、いわゆる「調剤業務」を軽減すべく、「調剤の外部委託化」を可能とする法改正を検討している。しかし、この法律が有用であるのは、それによって捻出された時間を薬剤師が対人業務に費やる場合に限られる。ついては、薬剤師が捻出された時間を対人業務強化に取り組む意識を持ち合わせているか否かを調べる調査を行った。その結果、調剤の外部委託化に過半数が賛意を示し、かつ、それによって捻出された時間を患者や地域住民に深く関わることに費やす意向を持っている実態が示された。この結果は、薬剤師が地域の社会活動に参画する機会創出を促すツールとして、調剤業務の外部委託化が有効である可能性を示唆している。こうした知見は薬剤師の業務に関する立法行為という公的実践に貢献しうる知見であると評価され、本誌掲載が妥当と判断された。

人々の意識・行動の選択に影響を与えるデジタルゲームの要素

上村 祥代、竹本 拓治、中西 孝平

「デジタルゲーム」での遊び行動が、人々の公的意思決定をよりよい方向に改善し得るという仮説が正当であるか否かを、「高レベル放射性廃棄物(HLW: High-level radioactive waste)処分に関する対話の場」を想定しつつ「考察」した基礎的研究である。実際にゲームを用いて意思決定を支援できるか否かを検証したものではなく、あくまでも基礎的研究という位置づけに留まるものであるが、デジタルゲームを原発問題における意思決定支援に活用した既往事例があること、至極簡便な一般的アンケート調査に基づく考察であるがデジタルゲームが「学び」や「調べ物」を誘発し得る可能性を示唆しており、今後のデジタルゲームの公的問題への意思決定支援を高度化するさらなる実践的研究への展開を期待しつつ、一定の公的実践貢献性が認められるとの判断の下、掲載することした。

幹線鉄道整備に関する財源関係諸課題の整理と主要論点の抽出―表面的な受益者負担論を脱却した整備財源の方向性―

波床 正敏

近年、整備新幹線の整備推進の機運が高まってきているが、その推進には「財源」問題を中心とした様々な課題が存在している。そうした認識の下、この研究では、そうした課題に対する対処法を総合的に検討を加え、以下を提言している。すなわち、根元受益負担や交通税徴収は利用者負担増なので望ましくないと指摘する一方で、利益を受けているにも拘わらず負担していない状況の「不公平」を是正する各種制度改変(新幹線沿線の自治体の税収の一部の財源化、時期による負担不公平の平準化するシステム、貨物輸送・航空・地域交通等の関連他手段の収入、沿線負担を建設延長ではなく設置駅数に比例するような算定方法、区画整理事業の理論的枠組みを援用した新制度、暫定整備計画制度の在来線改良への適用等)を提案している。これらの提案はいずれも理論的に優れた要素を兼ね備えており、その実現可能性の検討をその実現実践の展開へとつながり得るものであり、その公的実践貢献性は高く評価できることから、掲載されることとなった。

都市計画の規制緩和を伴う都市開発事業によるジェントリフィケーションの発現に関する研究―東京都における都市再生緊急整備地域の事例―

松行 美帆子、山口 大輔

都心再開発による大規模マンションの供給増加が住宅の高級化や経済的に豊かな若い世代の増加などのジェントリフィケーションを引き起こしているという指摘があるが、本研究は東京都における都市再生緊急整備地域のうち、新宿、秋葉原・神田、大崎、渋谷を対象として、国勢調査の小地域集計データを用いて、人口構成及び住宅種類の変化を分析することで、都市再生事業による各エリアのジェントリフィケーションの状況を明らかにしようとした意欲的な論文である。地区特性も考慮した統計データの注意深い実証分析による知見については共有知性を有しており、また再開発手法の在り方との関連性も論ずるなど実践貢献性も認められ、掲載に値する評価された。

自動運転システムが地域のシビックプライドに与える影響

岩田 剛弥、谷口 綾子、渡辺 健太郎

本論は、自動運転バスを導入することがシビックプライドの醸成、ひいては市民の幸福感の向上につながるのかを定量的に検証したユニークな研究であり、政策実践的価値の高い論文であると評価された。また、自動運転の社会的受容に関する態度、リスク認知、信頼などの心理指標がシビックプライドや主観的幸福感に与える影響を、より客観的に把握しようとしており、社会的共有地性が高い論文と評価された。

地方自治体における公共交通施策推進体制についての研究―中国地方を例として―

辻辺 貴晃、鈴木 春菜

この研究では、地域公共網を整備する取組(すなわち、モビリティ・マネジメント)において、地方自治体が担うべき役割を考える基礎的情報収集という趣旨で、中国地方の自治体を対象とした調査を行っている。調査より、職員数が少ないこと、とりわけ技術系職員がいない自治体が存在することが改めて示されると同時に、技術系職員が少ない場合には、地域公共交通のためのソフト・ハード両面の事業費、ならびに、地域交通計画における施策についての記述量それ自身が小さくなる傾向が実証的に示された。こうした基礎情報は、かねてより言われてきた基礎自治体における技術系職員不足が、当該自治体の地域公共交通政策の質的量的な劣化をもたらし、地域公共交通網のサービスレベルの劣化それ自身を導いている事を実証的に示すものであり、改めて技術系職員の強化を中心とした体制強化が必要であることを示すものである。この知見には地域公共交通政策における公的実践貢献性が十分に認められると判断され、掲載されることとなった。

新たな交通サービスとパーソナルモビリティの受容に関する検討―群馬県前橋市におけるアンケート調査を事例として―

塚田 伸也、坪山 翔多、森田 哲夫

本論文は近年関心が高まっている、超小型モビリティ、マイクロモビリティから電動キックボードいたるまでのパーソナルモビリティに関して、試乗を伴うフォーラム会場において参加者に意識調査を実施し、その結果を数量化理論第 III 類に適用して分析記述したものであり、政策実践性の高い論文と評価された。本論分は、パーソナルモビリティに関する、認知・評価・使用意志などに関する貴重なデータを客観的に分析しており、知見は社会共有知性を有していると判断された。

観光依存が都市経済にもたらす脆弱性に関する質的研究―コロナ禍初期の現場事業者の証言を手がかりに―

畑 喬介、川端 祐一郎、藤井 聡

本研究は、近年のインバウンド観光ブームを背景とした「観光依存」がコロナ禍に対する都市経済の脆弱性を助長する可能性について、大阪及び京都の観光スポットとなっている有名商店街と交通事業者という現場事業者への構造化されたインタビューを基にした質的な検討を行っている。インバウンド需要の急増による不動産バブルやそれに伴う新興店舗の出店状況、このような店舗は撤退も早いことなど観光依存型の経済がコロナ禍のような危機に対する脆弱性を高めたこと、その一方で地域密着型の老舗店舗の地道な安定的な行動などを、インタビュー証言の的確な引用により明らかにしており、社会的に共有すべき有益な知見を導いている。また、本研究の知見は、今後の観光都市のあり方を考える上で有益な実践的示唆を得ており、公的実践貢献性も高いと評価できる。

東日本大震災の長期的なマクロ経済被害に関する研究

遠山 航輝、加藤 真人、川端 祐一郎、藤井 聡

東日本大震災の長期的なマクロ経済被害を、大胆な仮定に依存する部分はあるものの、従来必ずしも考慮されていなかった「震災がなかった場合に成長しているはずだった状態に比べ、被災地の本来の経済的実力がどれだけ棄損してしまったか」という視点に立ち、被害の直接推計と間接効果を岩手、宮城、福島の各県別に推計し考察を行いうとともに、政策提言を試みた論文である。これまでは、現存するストックの被害額という限定的なマクロ経済被害推定の地平を広げようとする試みであり、その姿勢は共感できる。本研究では、被害額はこれまでの推定額を遥かに超える68.3兆円、25年という長期にわたって被害が継続する可能性があるなど今後の復興政策上も考慮すべきことも提言していて実践貢献性からも評価できる。推定作業には方法論やデータの制約から大胆な仮定が必要であるが、仮定の構築作業プロセス、被害額の推計プロセス、そして推計結果についての考察は慎重かつ視野の広いものとなっていて、一定の説得力と共有知性を有しており、登載に値すると評価された。