第10巻 第1号
ページ数 | タイトル/著者 |
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3~16 | 巻頭言 『実践政策学』創刊10年、その原点を振り返る 実践政策学エディトリアルボード |
17~32 | 大企業購買担当者の収奪促進的購買態度とパーソナリティー・道徳性の関係に 関する研究 高平 伸暁、川端 祐一郎、藤井 聡 |
33~40 | コミュニティ連携に向けたICT人材育成のための学習体制の構築と実践―オンラインによる広域展開と技術学習の個別最適化に向けて― 宮川 慎也、遠藤 守、浦田 真由、安田 孝美 |
41~52 | 熊本県の「緑の流域治水」における雨庭整備の実態解明と今後の雨庭整備論―導入目的と主体間連携に着目して― 前田 菜緒、太田 尚孝、新保 奈穂美 |
53~62 | 大学キャンパス内のシェアサイクルポート設置の有効性評価―千葉大学西千葉キャンパスを対象にして― 西口 朋輝、有賀 敏典 |
63~76 | 大阪市における公園樹・街路樹管理の課題と提案―公園樹・街路樹の安全対策事業を中心に― 谷口 るり子 |
77~84 | 活動への参加状況にみるシビックテックコミュニティの変容―Code for Sagaを対象として― 安藤 朋恵、太田 一帆、伊藤 香織、髙栁 誠也、瀬戸 寿一 |
85~92 | 地域における医療・介護従事者のACP実践の促進を目指した研修会の効果 山本 真理子、奈古 由美子、中村 千賀、矢野 朋子、深田 悠花、村上 尚子、呉代 華容、木戸 倫子、松浦 正和、廣瀬 智恵子、林 憲太朗、濱本 利美、樺山 舞、神出 計 |
93~98 | 地域ブランディングの実践と課題―東北復興支援と地域連携PBL― 大嶋 淳俊 |
99~108 | 駐車場地域ルール策定の目的とその運用実態・課題 大門 創、松本 浩和 |
109~117 | 政治的言説における怒り表出の機能―セクハラを事案として― 向井 智哉、新井 忍、松木 祐馬、小泉 瑠璃 |
掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・藤井 聡・羽鳥 剛史・桑子 敏雄・森栗 茂一・柴山 桂太
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)
外部査読委員について:
本号の各論文の査読にあたっては、実践政策学エディトリアルボードより下記の外部査読者の意見を照会し、当該意見を踏まえつつ実践政策学エディトリアルボードにて査読判定を行った。ここに記して、外部査読者各位に深謝の意を表したい。
記
伊藤 香織(東京理科大学 創域理工学部)
海老澤 清也(公益財団法人えどがわ環境財団)
栗野 盛光(慶應義塾大学 経済学部)
柴田 久(福岡大学 工学部)
白川 俊介(関西学院大学 総合政策学部)
杉谷 和哉(岩手県立大学 総合政策学部)
鈴木 春菜(山口大学 工学部)
高田 知紀(兵庫県立大学 自然・環境科学研究所)
冨永 晃輝(NPO法人ヒトの教育の会)
中村 文彦(東京大学 大学院新領域創成科学研究科)
松村 暢彦(愛媛大学 社会共創学部)
(五十音順)
大企業購買担当者の収奪促進的購買態度とパーソナリティー・道徳性の関係に 関する研究
高平 伸暁、川端 祐一郎、藤井 聡
我が国の産業界における調達に伴う上位企業からの収奪は中小企業を疲弊させる源泉として、長年指摘されておりその解決が問われてきた。本論文では購買態度とパーソナリティー・道徳性の関係を、文献調査に基づいて視点や仮説を構築し、態度指標の設計に活用したうえで、実際に購買担当者に対してアンケート調査を行い、その分析を丁寧に行っている。このように収奪問題における心理学的側面に焦点をあてた基礎的な論文であり、問題解決のために有効な方策を検討する基礎文献になると考えられる。成果の一つを例示すれば、権威主義的組織や購買担当者の反社会的パーソナリティーがサプライヤーに対する配慮を低下させること、また、権威主義的性質が弱い組織や購買担当者の反社会的パーソナリティーが弱い場合には、サプライヤーに対する配慮は高まる一方で、自社のマニュアル遵守やコスト改善意識が高まる構造も指摘している。これらは共有すべき知見であると評価され掲載に値すると判断された。
コミュニティ連携に向けたICT人材育成のための学習体制の構築と実践―オンラインによる広域展開と技術学習の個別最適化に向けて―
宮川 慎也、遠藤 守、浦田 真由、安田 孝美
地域におけるICT教育の重要性が指摘される一方、多くの地域では、ICT人材不足に加えて、人材育成のための学習環境が十分に整えられていないのが実情である。特に、一人ひとりの興味関心や理解度に合わせた学びの個別最適化を図りながら、学習機会の広域展開を進めていくことは容易ではない。本研究は、この課題を克服する上で、筆者らの長年に及ぶ人材育成の実践に基づいて、情報技術分野の知見を活かしつつ、草の根的なコミュニティ連携を図ることにより、継続的な学習体制を構築する可能性を検討している。本研究で提案された、多様なコンテンツの展開、オフライン・オンラインの学び機会、人材交流やコミュニティ連携、及びそれらの方法を連動させた学習体制は、地域のICT人材育成を検討する上で有益な示唆を与えるものであり、社会的に共有すべき知見であると評価された。一方、本研究は、理念的な学習体制の提案に留まっており、今後、地域での展開を具体的に進めながら、更なる実践的な知見を見出していくことを期待したい。
熊本県の「緑の流域治水」における雨庭整備の実態解明と今後の雨庭整備論―導入目的と主体間連携に着目して―
前田 菜緒、太田 尚孝、新保 奈穂美
近年、全国的に流域治水の展開が推進されている中、グリーンインフラが果たす役割も注目されつつある。しかし、多様な形態のグリーンインフラの具体的な整備手法は未だ定まっておらず、その導入事例も多くないのが現状である。そうした中、本研究では、熊本県の緑の流域治水における雨庭整備の実態を明らかにし、主に導入目的と主体間連携の観点から、今後の雨庭整備のあり方や留意点について検討を行っており、時宜にかなった政策論文として高い価値を有するものと認められた。特に、詳細な実態調査を基にまとめられた雨庭整備の課題と求められる対応に関する知見は、今後、様々な地域・自治体で雨庭を導入する際に参照価値の高い知見となっている。以上のことより、本論文は、公的実践への貢献性が高く、社会的な共有知化も果たされていると評価された。
大学キャンパス内のシェアサイクルポート設置の有効性評価―千葉大学西千葉キャンパスを対象にして―
西口 朋輝、有賀 敏典
本論文では、ある大学キャンパスを対象に、「シェアサイクルポート」を設置した場合の利用需要を行動意図法(BI 法)を用いて推計することを通して、当該システムを設置する際の課題を整理している。その結果、大学キャンパス内にシェアサイクルポートの需要が一定以上存在しており、当該システムが自転車非所持学生の大学キャンパスのモビリティを改善しうることを実証的に示している。こうした実践研究は、他キャンパス、さらには他の地域に大いに参照可能なものであると共に、それらエリア・地域のモビリティの改善実践(モビリティ・マネジメント)に貢献しうるという視点から掲載が適当と判断した。
大阪市における公園樹・街路樹管理の課題と提案―公園樹・街路樹の安全対策事業を中心に―
谷口 るり子
大阪市は2018年度から2024年度までの7年間で約19,000本の公園樹・街路樹を伐採する予定である。本論文ではこの樹木伐採事業を各種データの分析に基づいて多面的に評価するものである。その結果、樹木管理において剪定費が占める割合が約70 %であること、2017年度からの5年間で実際に樹木が約16,000本減ったこと、植え替える場合は小さい樹木への植え替えが多いこと等を明らかにすることで、樹木伐採に行政的行理性・一貫性が存在していない疑義を指摘している。そしてその上で、伐採基準を明文化する等の改善策を提案している。公園樹・街路樹管理という公的実践において、その実践の質の高度化に視する学術論文であるとの視点から掲載が適当と判断した。
活動への参加状況にみるシビックテックコミュニティの変容―Code for Sagaを対象として―
安藤 朋恵、太田 一帆、伊藤 香織、髙栁 誠也、瀬戸 寿一
近年、市民がオープンデータやITを活用して地域的な社会課題の解決を図るシビックテックが、市民参加の新しい形として注目を集めている。本論文は佐賀県のCode for Sagaを対象に、イベントへの参加を通じて参加者の活動内容や活動パターンがどのように変化したのかを調査したものである。既存の組織形態と異なり、シビックコミュニティはメンバーも活動内容も固定されていないが、そこには個人と集団、活動と関心が相互に影響を与えあいながら有機的に移り変わっていくなど、興味深い特徴が見られる。テクノロジーの発展が可能にした市民参加の新しい形を分析したものとして評価し、掲載を決定した。
地域における医療・介護従事者のACP実践の促進を目指した研修会の効果
山本 真理子、奈古 由美子、中村 千賀、矢野 朋子、深田 悠花、村上 尚子、呉代 華容、木戸 倫子、松浦 正和、廣瀬 智恵子、林 憲太朗、濱本 利美、樺山 舞、神出 計
過剰な医療、あるいは不適切な医療を回避するためのアプローチとして、現在、患者、家族、医師との間で治療前に治療方法について事前に話し合い、検討し、それに基づいて具体的な治療を推進するというAdvance Care Planning(ACP)の必要性がしばしば指摘されている。この研究では、医療・介護従事者を対象に研修会を実施することがACPの効果的な促進に寄与するか否かを検証する実験を行い、そうした促進が実際に可能であった事例を示している。ACPが促進されることで、実際に患者の幸福が増進するか否かの検証は求められているところであるが、ACP促進に一定の公共的意義があるものと想定されることから、本論文に一定の公的実践貢献性が認められる。ついては、掲載が適当と判断した。
地域ブランディングの実践と課題―東北復興支援と地域連携PBL―
大嶋 淳俊
観光による地域活性化に焦点があてられる中で、コミュニティ意識醸成の重要性が指摘されることが多い。この中で「地域ブランディング」という言葉は社会的関心を強く引きながらも、研究者・実務者がそれぞれの考え方に基づいて議論されてきたのではないかという課題認識の下、本研究では欧米のブランド論、プレイス・ブランディング論やマーケティング論などの先行研究をもとに地域ブランディングの概念整理を行うとともに、地域資源化プロセスの考え方を参照しながら地域ブランディング形成段階について論じている。本論文の特徴はこのような理論的研究と著者の長年にわたる東北地域における実践研究の知見を融合させようとしていることである。この分野の研究の多くが外部からのブランド・イメージを重視して地域外の顧客の関心・共感を得る「外の共感」を重視してきたのに対して、実践活動を通して外部に評価されうる地域のブランド・アイデンティティを磨いていくには、地域内における「内の共感」醸成に注目が向けられるべきだと主張している。これらの点が共有知性に優れ、公的実践への貢献性も高いと評価された。
駐車場地域ルール策定の目的とその運用実態・課題
大門 創、松本 浩和
都市域における駐車場政策は大きな関心を引き付けている。「歩きやすいまちづくり」やそこに向けて地域が抱えている交通課題解決への貢献、標準付置義務条例に基づいて整備された駐車場が十分な利用がなされていないという指摘、さらに大規模再開発のあり方や過度な自動車の利用を防ぐためにも駐車場政策が重要であるとの認識の表明などである。本論文は東京都下の駐車場整備計画に基づく地域ルールを比較分析すると共に、小規模建築物密集地区におけるヒアリングも伴った事例を詳細に分析し、課題をとりまとめた論文である。地域の現状や課題、将来像に応じてきめ細かく対応する地域ルールの制度運用上の課題を明らかにすることによって、公的実践へ高く貢献していると判断できるとともに、複数の事例を通して論点を一般化することによって、社会的共有知化が果たされていると評価された。
政治的言説における怒り表出の機能―セクハラを事案として―
向井 智哉、新井 忍、松木 祐馬、小泉 瑠璃
「怒り」の表出は、道徳的・政治的に正当化しうるのかという問題は、政治哲学の分野で長く議論されてきた。本論文では、帰結主義の立場を取る論者の知見を参考に、怒りにはネガティブな機能(報復機能、回避機能)とポジティブな機能(顕在化機能、洗練機能)があると仮定した上で、それぞれの機能の表れ方を、セクハラを事案とした心理学的な調査によって明らかにしている。これによって「怒り」をめぐる政治哲学上の問いに答えが出たわけではないが、規範理論と実証研究の架け橋として意義のある研究であることを認め、掲載を決定した。