第8巻 第1号
ページ数 | タイトル/著者 |
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5~20 | 地方自治体による鉄軌道政策の成果と課題に関する研究 森 雅志、本田 信次、高森 長仁、谷口 博司、中川 大 |
21~27 | 動画コンテンツを用いた自動車や自転車の利用マナーに関する意識変容についての研究 中尾 聡史、山田 忠史、岡田 朝斗、シュマッカー ヤンディャク |
29~36 | 大阪城公園におけるPMO事業の実態について―収支の問題を中心として― 谷口 るり子 |
37~46 | 地方都市における墓地立地の把握方法と墓地立地特性に関する検討―群馬県前橋市を事例として― 森田 哲夫、塚田 伸也 |
47~54 | 離島航路利用者における移動負担感の日韓比較 荒谷 太郎、金 華榮、ファム ティ クィン マイ、宮崎 恵子 |
55~65 | 宮城県気仙沼市における良好な「子育て環境」の規定要因の理解―気仙沼子育てタウンミーティングでのグループインタビューを通じて― 田中 惇敏、西村 歩、松本 光基、井庭 崇 |
67~78 | 医師アンケートに基づく過剰医療の実態に関する研究 田中 駿也、川端 祐一郎、森田 洋之、藤井 聡 |
79~85 | 都道府県の医療費と住民の健康度の関連性に関する実証的研究 田中 駿也、川端 祐一郎、森田 洋之、藤井 聡 |
87~102 | 新型コロナウイルス対策を巡る市民の態度及び行動に関する研究 田中 駿也、岡村 元太郎、川端 祐一郎、藤井 聡 |
103~118 | フランスにおける都市政策実現に向けての合意形成に関する研究 ヴァンソン藤井 由実、金山 洋一、岡井 有佳、村尾 俊道、本田 豊、中川 大 |
119~128 | 中山間地域の空き家活用事例に関する生活史調査 羽鳥 剛史、藤本 脩平、尾崎 真由 |
掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・藤井 聡・羽鳥 剛史・桑子 敏雄・森栗 茂一・柴山 桂太
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)
外部査読委員について:
本号の各論文の査読にあたっては、実践政策学エディトリアルボードより下記の外部査読者の意見を照会し、当該意見を踏まえつつ実践政策学エディトリアルボードにて査読判定を行った。ここに記して、外部査読者各位に深謝の意を表したい。
石田 東生・桑子 敏雄・藤井 聡・森栗 茂一
記
秋山 孝正(関西大学 環境都市工学部)
大庭 哲治(京都大学 大学院工学研究科)
岡本 直久(筑波大学 システム情報系)
神田 佑亮(呉工業高等専門学校 環境都市工学分野)
北詰 恵一(関西大学 環境都市工学部)
鈴木 春菜(山口大学 工学部)
田中 皓介(京都大学 大学院工学研究科)
谷口 綾子(筑波大学 システム情報系)
谷口 守(筑波大学 システム情報系)
羽鳥 剛史(愛媛大学 社会共創学部)
松村 暢彦(愛媛大学 社会共創学部)
(五十音順)
以上
地方自治体による鉄軌道政策の成果と課題に関する研究
森 雅志、本田 信次、高森 長仁、谷口 博司、中川 大
本論文は、筆頭著者が富山市長を務めていた折りに、連名者を含む多数の関係者らと共同で富山市の事業として推進した「鉄軌道(LRT)の利便性向上に向けた公共投資政策を軸とした、拠点集中型のコンパクトなまちづくり」の概要を、その推進経緯や各段階の行政的意志決定のあらましやその考え方や理念、配慮事項、さらにはその事業の効果等を描写・報告すると共に、それらを踏まえた上で鉄軌道整備を通した交通まちづくりの在り方そのものについての考察を加え、政策提言を図ったものである。これらの事業推進経緯についての記述・描写は、全国で鉄軌道の整備を通した交通まちづくりを何らかの形で実践しようと試みる全ての実践者に有益であると共に、後半の政策提言は「制度設計」を図る関係者全員に有益なものとなっている。こうした理由から、本論文には明確な公的実践貢献性が確認できることから本誌エディトリアルボードによって高く評価され、掲載決定となった。
動画コンテンツを用いた自動車や自転車の利用マナーに関する意識変容についての研究
中尾 聡史、山田 忠史、岡田 朝斗、シュマッカー ヤンディャク
本論文は、「マナー」ある自転車・自動車の走行・駐車行動を公衆に向かって呼びかけるインターネット動画が、その視聴者の自転車・自動車の利用についてのマナー意識に対して如何なる影響を及ぼすのかについての実証実験を行ったものである。実験の結果、実験に活用した動画によって自転車・自動車の利用におけるマナー意識・道徳意識が確かに活性化することが確認されている。そしてそうした効果は、非高齢者において、そして自転車・自動車の利用頻度が高い人々においてより大きくなる傾向が示されている。これらの知見は、自転車・自動車の利用マナー向上策の推進という公的実践に直接貢献し得るものであり、本誌掲載の価値が十分認められることから、掲載が決定された。
大阪城公園におけるPMO事業の実態について―収支の問題を中心として―
谷口 るり子
大阪城公園のPMO事業の収支を公開資料により詳細に検討し、PMO事業の評価のあり方に一石を投じた共有知性を有する論文である。「PMO事業以前は4,000万円の財政支出があったのに対し、PMO事業によって2億円以上の財政収入が得られるようになった」という言い方が妥当性を欠くことを論証している。政策がイメージでとらえがちであることが少なくないなか、客観的、正確かつ抑制的に分析・考察・記述する姿勢は政策批判という公的実践性においても、また得られた知見の共有知性という点においても、掲載すべき論文であると判断した。
地方都市における墓地立地の把握方法と墓地立地特性に関する検討―群馬県前橋市を事例として―
森田 哲夫、塚田 伸也
前橋市を対象として墓地の位置・規模等の基礎的情報を備えたデータベースの作成方法の提案と作成された墓地データベースと市民意識調査を用いて墓地に係る課題について分析・考察を行った研究である。墓地データの作成方法と調査フローを具体的に整理したことには価値が認められる。また、市民3,000人を対象に行っている調査も、集計分析レベルの結果ではあるが、前橋市にとっては一定の情報価値があると考える。公的実践への貢献に関しては、政策形成と判断と基礎情報の提供という段階にまだとどまっているが、筆者らは長期的見通しの下で研究を展開してきており今後に期待したい。
離島航路利用者における移動負担感の日韓比較
荒谷 太郎、金 華榮、ファム ティ クィン マイ、宮崎 恵子
多くの有人離島を抱える日本において、今後の国土の均衡ある発展、安全保障等を考える上で重要な離島公共交通政策を考察するための重要な基礎研究である。日本の離島航路利用者の移動負担感を、簡便かつ定量的に把握している既往研究を前提として、韓国のそれと比較したもので、その比較を通して、実践政策的意義の抽出を試みている論文と考えられる。共有すべき知見を提供していて掲載すべき価値はあると思われるが、まだ実践政策的意義が十分に明らかでないこともある。これらについては読者との議論による研究の深化も含めて今後に期待したい。
宮城県気仙沼市における良好な「子育て環境」の規定要因の理解―気仙沼子育てタウンミーティングでのグループインタビューを通じて―
田中 惇敏、西村 歩、松本 光基、井庭 崇
良好な子育て環境の規定要因をグループインタビューにより探った研究であるが、単にグループインタビューという地域限定的かつ小サンプルの質的記述を取りまとめたものにとどまらず、統計的分析や全国との比較検討、多数の主体との連携・協働に根差した実践からの気づきなども記述考察されていて、共有知性から見ても公的実践貢献性から見ても高水準の研究論文である。詳細な質的ヒアリングデータをベースに他のデータと融合させて解釈・考察し、実践政策的提案に繋げていく本研究のスタイルは、本誌の目指すべき方向性にある重要な論文形式であると評価したい。
医師アンケートに基づく過剰医療の実態に関する研究
田中 駿也、川端 祐一郎、森田 洋之、藤井 聡
政府でも民間ジャーナリズムでも言及されている医療費の急増に鑑みて、過剰医療といえる状況が存在するのかどうか、医療関係者への意識調査を基にした分析・考察を試みた研究である。一人当たり医療費の上位5県と下位5県において勤務医を対象に有効数453のウェブ調査を実施したものである。質問は既存研究の成果を活用して設計されており、調査の質は高いと評価できる。また、分析結果は興味深いものであり、共有知性は十分に存在すると思われるが、過剰医療という状況を示すに足る積極的エビデンスというレベルに至ってはいない。問題・課題の広がりと考察や政策提言の難しさを想像させる結果になっている。ただ、医療問題は公的政策として非常に重要であり、かつ緊急の対応が迫られていることもあり、実践政策学としての問題提起と調査手法の提示という実践貢献性も有していて、登載に値すると評価したい。
都道府県の医療費と住民の健康度の関連性に関する実証的研究
田中 駿也、川端 祐一郎、森田 洋之、藤井 聡
本研究は、都道府県ごとの総合健康度指標を作成し、一人当たり医療費との相関関係を調べることにより、過剰医療が存在するかどうかの可能性について実証的に検討したものである。過剰医療の問題は、国民の健康促進、及び財政負担の観点からも看過できない課題であり、その点において本研究の試みは、医療問題の改善に向けた公的実践への貢献度が高いものであると考える。また、本論文で述べられている通り、既存文献においても過剰医療の問題が論じられているものの、医療費と総合的な健康度との関連性を実証的に検討した研究は為されておらず、本研究の知見は社会的に共有する意義を有すると考える。論文の完成度も高く論旨は明快であり、数量分析とその解釈もまぎれない。以上のように、公的実践貢献性及び社会的共有知性の観点から、本論文は登載に値すると評価する。
新型コロナウイルス対策を巡る市民の態度及び行動に関する研究
田中 駿也、岡村 元太郎、川端 祐一郎、藤井 聡
土木学会土木計画学研究委員会で実施した「新型コロナウィルスに関する行動・意識調査(この調査は全データが公開されている)」を用いて、新型コロナウィルスのリスクを国民はどのようにとらえているか、「自粛政策賛成度」、「外出時個人対策実施度」、「自粛警察的態度」を中心に、これらの態度に影響を与える要因を探索的に分析し、その意味するところ、今後の政策への示唆を考察した論文である。本研究の分析の結果は、今後、得体の知れない高リスクな状況に置かれた際の政策や社会とのコミュニケーションを検討・実施する上でも、非常に価値のある実践的知見であり、社会でも広く共有すべきものであると評価できる。特に、居住地域の客観的な流行状況と個人のリスクとは無関係にリスクイメージが醸成されている可能性があり、なかでもメディアの情報及びメディアのなかの専門家と称する人々の意見が各種態度に有意な影響を及ぼすことを実証していることは価値が大きい。内外の最新の研究の広範なレビューは資料的価値が高いことも評価できる。
フランスにおける都市政策実現に向けての合意形成に関する研究
ヴァンソン藤井 由実、金山 洋一、岡井 有佳、村尾 俊道、本田 豊、中川 大
本論は、フランスにおける都市政策の策定過程(特にLRT計画)と合意形成を図るための法制度と政策をこれまでの推移と変遷、ならびにアンジェ市における実際の事例をコンパクトに分かりやすく分析記述した共有知性の高い論文である。これまでにもフランスの公共事業における合意形成過程や制度は断片的に多く紹介されているが、最新の情報も踏まえて、また共著者の交通政策視点も交えながら、わが国での適用可能性、我が国との相違を踏まえた分析であり、公的実践知の高い論文となっている。ゆえに、本論は掲載すべき論文であると判断した。
中山間地域の空き家活用事例に関する生活史調査
羽鳥 剛史、藤本 脩平、尾崎 真由
本格的な人口減少時代を迎えるなか、全国的な課題となっている中山間地域での空き家活用事例を取り上げ、貸主と借主を対象とした生活史調査を実施し、彼らがその人生の経験の中でいかにして空き家の活用に関する意思決定を行ったかを、その生活史から考察した公的実践性の高い論文である。取り扱った事例は少ないが、貸主・借主間の信頼関係や、空き家の空間的・時間的な文脈依存性、当事者自身の人生史的条件から丁寧に論述考察されており、定性的研究としても共有知性が高い。ゆえに、本論は掲載すべき論文であると判断した。