第10巻 第2号

ページ数 タイトル/著者
125~137 新自由主義の詭弁性とその心理的効果に関する実証研究
柳川 篤志、沼尻 了俊、山田 慎太郎、宮川 愛由、藤井 聡
139~148 地方都市の独身者に着目した居住地域の差異に関する研究―「単身世帯」と「親と同居世帯」に着目して―
小寺 啓太、大畑 友紀、氏原 岳人
149~154 自動運転技術についての情報提供によるモラル・ハザード意識醸成可能性の基礎的実証研究
田中 皓介、中尾 聡史、谷口 綾子
155~162 市役所窓口における混雑度のAI予測と予測カレンダーの公開―岐阜県高山市における市民課窓口の事例から―
浦田 真由、谷口 友隆、堀 涼、遠藤 守、安田 孝美
163~168 大日本帝国期の満洲開発における歴史的研究を通した国土開発事業の基礎的条件に関する考察
小幡 敏也、藤井 聡
169~174 空き家の認識を広めるための啓発ツールの活用とその効果に関する研究
大畑 友紀
175~185 大船渡市三陸町越喜来地区の差し込み型防災集団移転促進事業の計画プロセスと地域組織の役割
車谷 綾花、福島 秀哉、福井 恒明
187~198 行政関係者対象インタビューに基づく防災インフラ整備へのソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)活用における実務的課題に関する研究
曽屋 裕介、川端 祐一郎、藤井 聡
199~210 災害時における外国人支援の課題と展望
田村 太郎
211~218 有志者らが拓く公共性―公共経営研究の一視角・長野県下伊那郡大鹿村の事例を手掛かりに―
安達 卓俊
219~224 経営リーダーになる飛躍的成長機会と「経験理論」の再検討―リーダーシップ開発論の視点―
大嶋 淳俊
225~232 地域在住高齢者の社会参加における肯定的・否定的感情の性別・年齢層別検討
西田 芽生、藤原 菜摘、李 婭婭、赤木 優也、木戸 倫子、神出 計、樺山 舞

掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・藤井 聡・羽鳥 剛史・桑子 敏雄・森栗 茂一・柴山 桂太
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)

掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・藤井 聡・羽鳥 剛史・桑子 敏雄・森栗 茂一・柴山 桂太
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)

外部査読委員について:
本号の各論文の査読にあたっては、実践政策学エディトリアルボードより下記の外部査読者の意見を照会し、当該意見を踏まえつつ実践政策学エディトリアルボードにて査読判定を行った。ここに記して、外部査読者各位に深謝の意を表したい。


青木 俊明(東北大学 大学院国際文化研究科)
大西 正光(京都大学 大学院工学研究科)
石川 慶一郎(愛媛大学 社会共創学部)
樺山 舞(大阪大学 大学院医学系研究科)
倉石 誠司(国土交通省 国土政策局)
塩見 康博(立命館大学 理工学部)
竹村 和久(早稲田大学 文学学術院)
宗野 隆俊(滋賀大学 経済学部)
秦 康範(日本大学 危機管理学部)
松村 暢彦(愛媛大学 社会共創学部)
(五十音順)

新自由主義の詭弁性とその心理的効果に関する実証研究

柳川 篤志、沼尻 了俊、山田 慎太郎、宮川 愛由、藤井 聡

本論文では、新自由主義的政策を支持する言説に含まれているといわれる詭弁性の説得効果について実証的な検証を行っている。この種の議論は方法・アプローチの科学的な厳密性なしに行われることが多いが、本研究では先行研究に基づいた新自由主義に関する物語記述の抽出、その物語記述の詭弁なし文章化への再構成プロセスの客観化、詭弁の効果についての心理実験の実施とその分析と調査分析の客観化に最大限の考慮を行っていることが共有知性獲得に向けての実践であることが評価できる。得られた知見に関しても興味深く、共有知性も高い。以上より掲載に値すると判断された。

地方都市の独身者に着目した居住地域の差異に関する研究―「単身世帯」と「親と同居世帯」に着目して―

小寺 啓太、大畑 友紀、氏原 岳人

本研究は、地方都市の独身者に着目し、その居住環境上の特徴について、居住誘導地域や公共交通利便性等の都市計画的特徴と関連させて分析・考察したものである。岡山市を対象にウェブアンケート調査を実施し、その結果を丁寧に分析している。独身者の居住に関する情報は入手が比較的難しく、特にいわゆる「パラサイトシングル」と呼ばれる親同居の独身者の動向を分析している点で高い新規性があり、社会的共有知が果たされていると評価した。併せて、親と同居する独身者が将来的に買い物難民や交通弱者になり得る可能性が示されており、晩婚・非婚化時代の都市・地域計画や政策実践に資する基礎的知見を導いている。以上より掲載に値すると判断された。

自動運転技術についての情報提供によるモラル・ハザード意識醸成可能性の基礎的実証研究

田中 皓介、中尾 聡史、谷口 綾子

自動運転を巡っては、運転手不足や地域公共交通の存続性等の課題解決の切り札としての重要性と可能性が声高に主張される一方で、過度の期待を戒める主張も散見される。本研究では、自動運転技術の現状についての情報提供による「技術革新への期待による、現存する問題への関心や責任感の低減」をモラル・ハザードとして定義し、実証的な検証を行っている。Webアンケートを用いた比較実験(n = 900)を通じて、自動運転技術の社会受容性のみを情報として提示することにより、モラル・ハザード意識が高まる傾向にある一方、自動運転技術の限界や課題も伝えることにより、その傾向が緩和されるとの実証的な知見を得ており、社会的共有知化が十分に図られている。併せて、自動運転技術の普及に伴う責任の希薄化に対処する上での有益な示唆を得ており、今後の公的実践への貢献も十分に期待される。以上より掲載に値すると判断された。

市役所窓口における混雑度のAI予測と予測カレンダーの公開―岐阜県高山市における市民課窓口の事例から―

浦田 真由、谷口 友隆、堀 涼、遠藤 守、安田 孝美

本研究は、発券機データを用いて市役所窓口の混雑状況をLightGBM(機械学習モデル)を用いたAI予測を行い、それを提供するシステムを検討・提案するものである。予測内容は2ヶ月先までの混雑予測を1時間ごとに確認できるものとなっており、かつ、こうしたシステムは人口減少や高齢化による地方自治体における職員不足や財政難の深刻化に対応するものでもあることから、高い有用性を確認することができる。加えて、本システムの開発過程において、技術開発者と市民や市役所等の関係者が技術開発段階から対話を図る事例となっており、エンドユーザーの利便性に対する配慮が適切になされており、同システムの他自治体等への応用においても有用な情報が掲載されている。こうしたことから、十分な公的実践貢献性が認められることから、掲載を決定した。

大日本帝国期の満洲開発における歴史的研究を通した国土開発事業の基礎的条件に関する考察

小幡 敏也、藤井 聡

大日本帝国期の我が国の満州開発を対象として、日本語文献を用いて満州開発を巡る種々の議論、総合的・長期的な視野の存在、技術者、行政官や国民に存在していた連帯感や国家発展への意志の存在などを明らかにしつつ、国土開発の基礎条件となった事柄を明らかにしようとした研究である。現在の我が国では国土計画の衰退と弱化が進行しつつあるという著者らの問題意識に基づく研究の序章として作成された論文である。興味深い知見の再発見など共有知性に優れ、これからの国土形成議論に対して重要な一石を投じた論文であり、掲載に値すると判断された。なお、査読者からは続編を望む声があったことを付記しておきたい。

空き家の認識を広めるための啓発ツールの活用とその効果に関する研究

大畑 友紀

本研究は、高校生を対象に空き家の認識を広めるための啓発ツールとして、すごろくを用いたゲームに着目し、その実践と効果検証を行っている。空き家問題についての一方的な説明だけではなく、すごろくによる疑似体験を通じて、楽しみながら正しい知識を身に付けられる取り組みは示唆的である。事前と事後のアンケート調査により、本取り組みの効果を統計的に検証し、空き家問題に対する認識が一定程度向上したことを示しており、社会的共有知化が図られていると評価した。一方で、一度の授業だけでは、自宅の将来に関するより主体的な意識を喚起するまでには至っておらず、今後の更なる検討と実践を期待したい。

大船渡市三陸町越喜来地区の差し込み型防災集団移転促進事業の計画プロセスと地域組織の役割

車谷 綾花、福島 秀哉、福井 恒明

大船渡市三陸町越喜来地区を対象に、東日本大震災後に実施された差し込み型防集事業(防災集団移転促進事業)での地域コミュニティ・地域組織の役割について、文献調査や関係者へのインタビューを元に詳細な調査を行っている。地域組織の階層性や、行政との協働過程についての具体的な記述は、大規模災害後の復興過程における集団移転の事例研究として価値が高い。今後の実務的展開に大いに資する可能性があるものと言えよう。

行政関係者対象インタビューに基づく防災インフラ整備へのソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)活用における実務的課題に関する研究

曽屋 裕介、川端 祐一郎、藤井 聡

本研究は、防災インフラの予算不足問題の打開策として、民間資金を活用したソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)に着目し、その導入における実務的課題を考察したものである。防災SIBの適用にあたっての問題点を文献調査と地方自治体の実務担当者へのインタビュー調査により明確にした上で、その適用に適した防災事業分野の特定と適用する際の留意点や工夫すべき点などを明らかにしている。防災SIBの活用可能性と課題に関わるインタビュー内容の共有知化が図られると共に、防災SIBの導入を進める自治体にとって参照価値の高い知見を導いており、公的実践貢献性も高いと評価された。以上より掲載に値すると判断された。

災害時における外国人支援の課題と展望

田村 太郎

本論文は、日本の災害時における外国人対応について、関東大震災、阪神・淡路大震災、東日本大震災等における事例をレビューし、その上で外国人対応の望ましい方向性について論じようとしたものである。過去の大災害における事例を確認したところ、外国人は単なる災害時支援対象者であるだけではなく、救護・救援・復興の担い手として様々に活躍している様子を確認している。その点を踏まえ、外国人コミュニティによる活動は同胞への支援の範囲を超え、地域全体の防災の担い手として活躍する可能性を示唆している。今後の災害対応を考える上で、近年においては無視することが出来ない外国人対応を幅広く考えていく上で貴重な情報と提案を提供するものであり、十分な公的実践貢献性が認められることから、掲載を決定した。

有志者らが拓く公共性―公共経営研究の一視角・長野県下伊那郡大鹿村の事例を手掛かりに―

安達 卓俊

本論は、長野県大鹿村で、介護予防につながる活動をしようと同地在住の有志者らが立ち上げた任意団体「ぬくもりの会」を一つの実例として、その生い立ち、活動、構成、他との協働、果たしてきたことなどを丁寧に収集し、レポート、分析したものである。調査の考え方、方法の説明、公共性の分析視点など、今後のフィールド調査の参考として、政策実践に対する貢献性なども評価できるが、何より、ナラティブとして読者にきっかけと勇気、ヒントを与えるという意味での社会共有知性は高く評価でき、掲載に値すると考える。

経営リーダーになる飛躍的成長機会と「経験理論」の再検討―リーダーシップ開発論の視点―

大嶋 淳俊

これまでリーダー人材の育成では、仕事上の経験が7割、2割が人との関わり、残りの1割が研修とする「経験理論」が信じられてきた。本研究ではデジタル変革など大きな社会変革に対応するためには、経験の積み重ねだけではなく、「飛躍的成長」が重要であるとの仮説のもと、数は少ないが4名の経歴や留学経験を異にする大企業4名のビジネスリーダーにインタビューを実施し、経営リーダーとしての成長には業務外での人との関わりや学びが重要であり、これらが自らの成長に重要であったという知見を非常に具体的に得ていて、共有知性が高いと評価された。今後、この知見を活用して実践活動に展開することを期待したい。

地域在住高齢者の社会参加における肯定的・否定的感情の性別・年齢層別検討

西田 芽生、藤原 菜摘、李 婭婭、赤木 優也、木戸 倫子、神出 計、樺山 舞

本研究は、高齢者の各種の「社会参加」がおよぼす影響を把握する基礎データとして、社会参加者達が感じる肯定的・否定的感情について、性別および(60才以上の階層における)年代別の特徴を明らかにすることを目的とした調査結果、およびその分析・解釈を報告するものである。調査分析の結果、高齢者達は社会参加対して否定的な評価する回答よりも肯定的に評価する回答を多くしており、とりわけ、「いろいろな人と出会い、交流できる」「楽しみや生きがいが得られる」と回答者の7割前後が評価していることを確認している。これに加えて、男性よりも女性の方が「楽しみや生きがいが得られる」と感じている一方、男性の方が「時間がつぶせる」「余り楽しくない」等についてより多く回答している傾向が示された。また、後期高齢者の方が社会参加を通して「楽しみや生きがいが得られる」と回答している傾向などを示している。今後、福祉行政、ならびに、社会参加行政を進めるにあたり、こうした基礎的知見は有用性を持ちうるものであることから、一定の公的実践貢献性があると判断し、掲載を決定した。