第8巻 第2号

ページ数 タイトル/著者
137~145 テキストマイニングを用いた都道府県再犯防止推進計画の検討
ブルースター デイビッド、向井 智哉、高橋 有紀、竹中 祐二、相良 翔、鈴木 政広、 相澤 育郎
147~155 東京圏居住者における地方都市の移住意識に関する一考察―群馬県を移住候補地とする対象者への調査―
塚田 伸也、森田 哲夫
157~162 犯罪者に対する原因帰属の因子構造
向井 智哉、野上 智行、湯山 祥
163~167 看護師長のリーダーシップとアサーティブ・コミュニケーション
加藤 淳、那須 清吾
169~174 豊後高田市における移住・定住促進策に関する一考察
綾部 誠
175~184 全国における地域貢献型社会参加活動の変遷―時代・年齢・世代に着目して―
安藤 慎悟、川合 春平、石橋 澄子、谷口 守
185~194 観光客の意向を反映した情報提供システムに関する研究―群馬県嬬恋村の防災・感染症対策のためのスマートシティ事業を対象に―
陶 星宇、森田 哲夫、木之下 僚太郎、張 童生
195~202 水道組合によって管理運営される小規模水道の現状と管理運営の継続意向の把握―熊本県水俣市を事例に―
境 翔悟、一ノ瀬 友博
203~212 固定資産税評価業務のための人工知能技術を用いたソーラーパネル検出システムの構築と実践
屠 芸豪、浦田 真由、遠藤 守、安田 孝美、島崎 寛和、 木村 智行
213~222 農家と消費者をつなげる無人販売所の制作・運営が高校生に与える教育効果―伊勢崎商業高等学校の活動事例―
大久保 達真、服部 貴哉、杉浦 俊太郎、新城 香、 小池 りつ子、山崎 涼子、早川 克美、森田 哲夫
223~234 ヤリタナゴ保護活動の変遷と生息状況に関する考察―群馬県藤岡市における保護活動を事例に―
新井 健司、森田 哲夫、斉藤 裕也、守山 拓弥

掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・藤井 聡・羽鳥 剛史・桑子 敏雄・森栗 茂一・柴山 桂太
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)

外部査読委員について:
本号の各論文の査読にあたっては、実践政策学エディトリアルボードより下記の外部査読者の意見を照会し、当該意見を踏まえつつ実践政策学エディトリアルボードにて査読判定を行った。ここに記して、外部査読者各位に深謝の意を表したい。
石田 東生・桑子 敏雄・藤井  聡・森栗 茂一


青木 俊明(東北大学 大学院国際文化研究科)
石崎 晶子(パシフィックコンサルタンツ株式会社)
氏原 岳人(岡山大学 環境生命科学学域)
大澤 義明(筑波大学 システム情報系)
小嶋 文(埼玉大学 大学院理工学研究科)
白水 靖郎(中央復建コンサルタンツ株式会社)
武田 裕之(大阪大学 大学院工学研究科)
中村 晋一郎(名古屋大学 大学院工学研究科)
羽鳥 剛史(愛媛大学 社会共創学部)
森田 哲夫(前橋工科大学 工学部)
吉武 久美子(東京女子医科大学 看護学部)
(五十音順)
以上

テキストマイニングを用いた都道府県再犯防止推進計画の検討

ブルースター デイビッド、向井 智哉、高橋 有紀、竹中 祐二、相良 翔、鈴木 政広、 相澤 育郎

この研究は、日本の刑事政策における再犯防止計画の「地域間の異質性・同質的」を、自治体単位の文書を統一的観点からテキストマインング手法に基づいて分析したところ、地域間の異質性は十分に確認出来ないという結果が得られた事を報告している。このことから、「都道府県には国の方針に実質的な異議を唱えたり変更したりする資源を持たない」という可能性があることを示唆している。この示唆を得る研究プロセスに一定の信頼性があり、かつ、こうした知見が今後の再犯防止計画の地域計画策定、ならびにその制度を検討するという公的実践において重要な示唆となり得るものであると判断されたことから、本論文掲載が妥当と判断された。

東京圏居住者における地方都市の移住意識に関する一考察―群馬県を移住候補地とする対象者への調査―

塚田 伸也、森田 哲夫

この研究は、群馬県を例として取り上げつつ、首都圏居住者の地方都市への移住意識についてアンケート調査を行い、それを通して、40歳未満の未婚層が、自然の豊かさやより良質な仕事・子育て環境を求めて地方移住を考えるケースが多い事、そして、結婚や出産、子どもの成長等を移住の契機と捉えているという実態を明らかにしている。また65歳以上の層もまた、より良好な老後の住環境を求めて移住するケースが見られる事も示している。これらの知見は、地方自治体が移住を促進するための諸政策を検討する上での基礎的知見となり得ると考えられることから、登載が妥当と判断された。

犯罪者に対する原因帰属の因子構造

向井 智哉、野上 智行、湯山 祥

犯罪者に対して、「どうしてそういう犯罪をするに至ったのか?」と、犯罪の原因を考える「原因帰属」という心理的プロセスは、犯罪関連の行政の在り方を考える上で決定的に重要な意味を持つ。そうした認識でこれまでも様々な実践的な犯罪心理学研究が進められてきたが、この研究はアンケート調査を通して人々が「犯罪者一般」についてのどの様な原因帰属を行っているのかの一般的知見を得ようとするものであった。その結果、過去の研究で想定されてきた原因帰属プロセス理論が必ずしも結果を十分に説明できるとは限らない、という知見を抽出し、それを受けて、犯罪原因についての既往研究に拘泥することは必ずしも有益ではないという実践的知見を得ている。こうした知見は本研究に関わる公的実践に一定の貢献が可能であると判断し、掲載を決定した。

看護師長のリーダーシップとアサーティブ・コミュニケーション

加藤 淳、那須 清吾

複雑化した現代チーム医療において、医療組織における看護師の数、および看護師のリーダーシップが期待されている。本研究は、こうした状況下、看護師長のコミュニケーションに焦点を当てた、現代ニーズに資するテーマである。かつ、現場実践を改善するのに役立つ考え方を示そうとしたもので、実践的価値があるものと考える。とくに、サーバント・リーダーシップの考え方とアサーティブコミュニケーションの活用について指摘したことは重要である。分析については、社会共有知性を今後に期待するところもあるが、一定の基準を満たした論文と考え、掲載すべきものと判断した。

豊後高田市における移住・定住促進策に関する一考察

綾部 誠

昭和レトロの街づくり、移住政策などの成功により全国的にも注目されている大分県豊後高田市の移住・定住政策をコンパクトに紹介し、子育て支援を中心とした重層的な移住政策、地域の魅力・資源などの効果的な情報発信、市役所職員の姿勢などの有効性と重要性を様々なデータを用いて明らかにした論文であり、広く共有すべき発見、実践の知見などは登載に値すると評価できる。豊後高田市という全国ブランド性を有している都市ならでは条件についての考察、これに加えて重層的な施策相互の関連性と相乗効果などについてのさらなる情報や知見は他の地域においても有用であり今後の研究の進化・深化に期待したい。

全国における地域貢献型社会参加活動の変遷―時代・年齢・世代に着目して―

安藤 慎悟、川合 春平、石橋 澄子、谷口 守

本論文は、全国の全世代を対象とした社会生活基本調査の15年分のデータを用いて、地域貢献型の社会参加活動の変遷実態を分析したものである。本論文のように全国規模の調査結果を個人情報に配慮しながら個人単位のデータを用いて社会参加活動の長期的な変遷を検証した研究は殆どない中、時代・年齢・世代の観点から活動者率の変化を捉えるアプローチは非常に興味深い。分析方法と考察、政策示唆も優れていて、社会的に共有すべき有益な知見を導いていると評価できる。また、本研究の結果は、国土計画の中で重視されている社会参加活動の促進施策を検討するための基礎的知見になり得るものと言える。

観光客の意向を反映した情報提供システムに関する研究―群馬県嬬恋村の防災・感染症対策のためのスマートシティ事業を対象に―

陶 星宇、森田 哲夫、木之下 僚太郎、張 童生

本研究は、嬬恋村の訪問観光客を対象とする情報提供システムに関するアンケート調査を実施し、災害・防災情報、感染症情報を提供する手段、提供する情報内容の意向を把握し、情報提供による観光客の安全・安心感、来訪意向の変化を分析したものである。情報提供により嬬恋村への来訪意向は、居住地が埼玉県、神奈川県、東京都の人、コロナ感染対策に関心のある人、情報機器で情報を得たい人、コロナ感染により観光等の外出の減った人、嬬恋村への来訪経験の多い人であることがわかった。近場の既訪問客でコロナ感染に関心のある人が、正確な情報提供を得ることで来訪回数が増えるという結果は、実践的価値があるものと思われる。日本語の複雑な表現、分析についても、一定の共有知性を有しており、掲載すべきものと判断した。

水道組合によって管理運営される小規模水道の現状と管理運営の継続意向の把握―熊本県水俣市を事例に―

境 翔悟、一ノ瀬 友博

生活者として必需である水共有に関して、地域住民に組織された水道組合によって管理運営が行われている小規模水道が全国には多数存在している。小規模水道が多数存続している熊本県水俣市において、55ある水道組合に対してアンケート調査を行い37の回答結果を用いて分析考察した論文である。維持管理負担や継続意向などについての知見が述べられるとともに、管理運営の継続意向が強い水道組合では、地域愛着が他の類型と比較して高く、住民による小規模水道の運営の持続性に寄与している可能性が示唆された。地域存続にとって物理的にも精神的にも不可欠なインフラである小規模水道の重要性の確認、小規模水道を持続可能にするための施策の具体的提示など、共有知性も実践貢献性からも登載すべきであると評価した。

固定資産税評価業務のための人工知能技術を用いたソーラーパネル検出システムの構築と実践

屠 芸豪、浦田 真由、遠藤 守、安田 孝美、島崎 寛和、 木村 智行

近年、建設が急速に進展しているソーラーパネルをAIによる画像処理技術を用いて、検出するシステム開発の報告である。論文でも触れられているように市町村税のおおよそ半分を占める固定資産税・都市計画税の徴収漏れを防ぐうえで、さらに傾斜地等における防災上の懸念、廃棄の負担などソーラーパネルを巡る数多くの課題検討にも、その出発点となる効率的、時間の遅れのないソーラーパネルの検出方法の開発は重要な課題であり、研究として意義が大きい。研究の方法論について疑問点があったが、適切、的確な修正がなされ登載すべきものと判断した。

農家と消費者をつなげる無人販売所の制作・運営が高校生に与える教育効果―伊勢崎商業高等学校の活動事例―

大久保 達真、服部 貴哉、杉浦 俊太郎、新城 香、 小池 りつ子、山崎 涼子、早川 克美、森田 哲夫

この論文は、無人販売と地域、教育をむすびつけ、一定の教育効果を生み出した実践を報告するものである。この論文では、地元の高校生が主体的に取り組む形で、農作物の無人販売所を活性化することが可能であるという一事例を示すと同時に、それによって農家と消費者が地域内で繋がることができ、かつ、高校生自身に対する一定の教育効果がある事を示している。こうした事例報告は、他地方において同様あるいは類似の実践を図ろうとする潜在的実践者に対して一定の公的実践貢献性が期待できることから登載が決定と判断された。

ヤリタナゴ保護活動の変遷と生息状況に関する考察―群馬県藤岡市における保護活動を事例に―

新井 健司、森田 哲夫、斉藤 裕也、守山 拓弥

本研究は、群馬県藤岡市におけるこれまでのヤリタナゴ保護活動と生息状況との関係を考察するものであり、丁寧に環境運動の経緯とその成果をまとめており、論旨も明快であり、十分な共有知性がある。貴重な記録となっており、社会的共有知性は十分ある。本論では、高齢化した環境活動において高校生が加わることで、環境運動の持続化、および運動が持続することを示している。生物種保全に関わる人行動と自然との循環についても論じており、実践的な論文と考え、掲載すべきものと判断した。