第3巻 第1号 2017年 春号

ページ数 タイトル/著者
5~14 経済思想に翻弄される日銀の金融政策
青木 泰樹
15~30 道路政策評価におけるETC2.0プローブ情報の活用方法に関する研究
牧野 浩志、井坪 慎二、後藤 梓
31~38 南海トラフ巨大地震における政府調達物資供給計画の実行可能性の検討
伊藤 秀行、ウイセットジンダワット ウイスニー、横松 宗太
39~52 公共調達制度の変遷と公益に資する適切な制度設計に関する研究
神田 佑亮、藤井 聡
53~60 実践政策学のためのエピソード記述の方法序論
森栗 茂一
61~68 単線方式による新幹線システムの建設単価推計―ローコスト新幹線システムの整備費用について―
波床 正敏、向井 智和
69~76 アジア人財資金構想卒業・修了生の留日阻害要因に関する研究
童 煉、綾部 誠、野田 博行
77~84 地方自治体の森林・林業政策の展開プロセスからみた住民主体の森林教育
清野 未恵子
85~90 大学生の服装に交通手段が与える影響―運動着・部屋着の服装規範と許容度に着目して―
谷口 綾子
91~104 地方消滅・地方創生論における思想を探る
伊地知 恭右

掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・桑子 敏雄・藤井 聡・森栗 茂一
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)

経済思想に翻弄される日銀の金融政策

青木 泰樹

 一国の命運を分ける「国力」の根幹に位置する経済力を決定づける政府による経済政策の具体的中身は、その一国において共有されている考え方、すなわち「思想」に依存している。ところが、今日、日本の経済政策に巨大な力を有している「主流派経済学の政策思想」には、理性ある人間ならおおよそ万人が理解しうるほどの極めて単純かつ明白な誤謬が存在する疑義が存在している。本論文はその疑義を、論駁しがたい形で論証している。その上で、その誤謬を適正化した上で求められる経済政策の方針を改めて論じている。こうした政策論はまさに、実践政策学における公的実践貢献性と社会的共有知性の双方を十分に満たすものであることから、本誌掲載が決定した。

道路政策評価におけるETC2.0プローブ情報の活用方法に関する研究

牧野 浩志、井坪 慎二、後藤 梓

 近年、我が国の道路行政では、高速道路等の料金を自動で収受するシステムである、いわゆる「ETC」のためのシステムを活用して、「プローブ情報」等を踏まえて様々な形で道路サービスの質的向上を図る試みが始められている。こうした取り組みは「ETC2.0」と総称されており、その可能性が、行政的社会的に大きく期待されている。しかし、「ETC2.0」という名称に暗示されているとおり、この取り組みには「イメージ先行」のきらいが危惧されており、具体的に一体本当に何ができるのかが未だに曖昧模糊としている、という部分の存在が現時点では否定し得ない状況となっている。こうした状況を踏まえ、本論文では、技術的な視点から、一体どのようなことが可能であり、その取り組みには一体どのような公的意義があるのかを総合的に論じようとしたものである。新しい技術であるETCを、我々の社会が「使いこなし」た上で、公益を増大する上で、こうした質的総合的議論は意義を持つものであることを踏まえ、本論文はその「第一歩」として評価され、本誌掲載が決定された。

南海トラフ巨大地震における政府調達物資供給計画の実行可能性の検討

伊藤 秀行、ウイセットジンダワット ウイスニー、横松 宗太

 本論文は、予想される南海トラフ巨大地震への備えとして計画されている政府調達物資の供給拠点のあり方についての研究であり、二次拠点の廃止とその場合の一次拠点の作業と市町村の役割を具体的に提案している。明確な問題意識、熊本地震での具体的な実践的経験および調査から論文は組み立てられていて、説得力をもち、公的実践貢献性においても社会的共有知性においても、また提案の緊急性においても評価できる論文である。

公共調達制度の変遷と公益に資する適切な制度設計に関する研究

神田 佑亮、藤井 聡

 我が国の公共調達制度の変遷とその時々の考え方・評価を長期間にわたって整理し、それらを踏まえた公共調達制度が具備すべき条件を提案した研究である。二次資料が多いとはいえ我が国の調達制度の歴史変遷を整理した成果は面白いし、共有すべき貴重な知見を数多く含んでいる。また、公共調達制度が具備すべき要件についての提言は、実践貢献性からもすぐれている。本誌にふさわしい論文であると判断し、掲載する。

実践政策学のためのエピソード記述の方法序論

森栗 茂一

 本論文は、学問としての「実践政策学」において必要不可欠な、普遍的な定量的尺度(つまり“数字”)を使わずに、個別具体的な事例(エピソード)から、公的な実践に貢献し得る「一般的」な知見を得る学術的方法を、既往研究を踏まえつつ提案するものである。同時に、その方法を活用した一事例を紹介する事を通して、その方法の実践的適用可能性と有用性を示さんとするものであり、その筆者の試みは一定の成功を収めていると評価し得る。今日の学術界では、「普遍的な定量的尺度を使わぬ学術行為は学術ではない」というドグマ(偏見)が強力な力を有しているが、そんな中において、公的実践に貢献する力を持った個別具体的な事例の報告とその解釈を論述する論文が学術論文として価値あるものであると社会的学術的に適切な形で共有認識されるにあたって、本論文は重要な貢献をし得るものと大いに期待できる。実践政策学研究の発展はもとより、エピソード記述の価値が認められるべき学術活動の発展に対してこうした意味において大いに期待できることから、本誌掲載にふさわしいものと判断した。

単線方式による新幹線システムの建設単価推計―ローコスト新幹線システムの整備費用について―

波床 正敏、向井 智和

 本研究は、単線新幹線システムに関する著者の研究実践の中で、単線新幹線システムによる整備費用削減効果の推定を行ったものである。新幹線整備という公的実践において、単線システムなどの新しい方法による費用縮減は極めて大きな意味を有するが、これまでは十分な研究がなされていなかった。これに切り込んだという実践貢献性は高く評価できる。また、あまり十分でない情報公開状況のもと、工夫と丁寧な考察を重ねた費用推定の具体的プロセス、具体的には建設単価の推定値は他の路線でも採用可能であるという点で、方法論と結果の社会的共有知性は優れている。掲載すべき価値を有する研究だと判断する。

アジア人財資金構想卒業・修了生の留日阻害要因に関する研究

童 煉、綾部 誠、野田 博行

 今日、少子高齢化による深刻な労働力不足問題を解消するために、政府は外国人高度人材の活用に力を入れている。こうしたなかで、本論は、高度専門人材の確保の観点から、経済産業省と文部科学省が実施した「アジア人財資金構想」の留日卒業生の日本国内定着に関して、会社適合性と社会適合性から分析している。制度をつくるだけではなく、その事後をフォローした、公的実践知のある論文である。分析の結果、離日留学生のなかには、家庭事情等による離日が多いことから、留学生の修了後の社会的サポートが必要な点を論じている。社会的に共有すべき価値をもった論文考え掲載する。

地方自治体の森林・林業政策の展開プロセスからみた住民主体の森林教育

清野 未恵子

 本論文は、森林教育の実践に基づく貴重な記録および論考であり、今後の森林教育の進展にとって貴重な情報を多く提供していると評価できる。とくに兵庫県篠山市という具体的なフィールドで地元の多様な活動をきめ細かく調査を行いながら、それらの実践的な取り組みを分析することによって、森林教育のあり方について考察を深めている点で本誌に掲載すべきものと判断した。

大学生の服装に交通手段が与える影響―運動着・部屋着の服装規範と許容度に着目して―

谷口 綾子

 本論分は、クルマ依存社会が個々人の「服装」にもたらす影響に対して、定量的に実証したユニークかつ意欲的な社会的共有知の高い論文である。服装規範と公共交通との関わりという日常の「あたりまえ」「そうだろう」と思われることがらを、改めて科学的に思考し、定量的に実証した点が本論の特色である。とくに電車における学生の公共意識を、実証的にあきらかにした点は、今後のモビリティマネジメントの取り組みに新たな示唆を与え、公的実践への貢献が期待される重要な論文と考え掲載する。

地方消滅・地方創生論における思想を探る

伊地知 恭右

 本論文は、「地方創生」という現代日本の一つの中心的な政策について思想的な考察を与えようとするものである。この思想的考察を「より望ましい生き方」という概念を軸に置いて展開しようとする点で、本実践政策学のめざす一つの方向に沿うものと評価できる。本論文の結論は「地方創生論」に対して否定的・批判的な段階であることから、その課題を克服する著者自身の思想の提案に向かう礎石として評価したい。すなわち、著者も述べているように、今後、「生き方」にかかわる実践を通じた積極的な思想の展開を期待する。