第2巻 第1号 2016年 春号

ページ数 タイトル/著者
5~14 大阪市における特別区設置協定書に関する住民説明会での説明内容のテキスト分析
谷口 るり子
15~28 豊田市における継続的な交通需要マネジメント施策の展開に実践組織が果たした役割
西堀 泰英、山崎 基浩、樋口 恵一
29~36 地域政策実施時の合意形成にむけたコミュニケーション過程に関する考察
板倉 信一郎
37~44 東日本大震災における路線バス運行現場の災害応急対応―岩手県大船渡エリアを対象に―
佐藤 良太、谷口 綾子
45~52 河童の民話における土木技術者の位置づけに関する民俗学的研究
中尾 聡史、森栗 茂一、藤井 聡
53~58 大衆性と投票判断基準の関連性に関する研究―「おもろい」候補者かどうかが投票判断を支配したという一事実―
中尾 聡史、宮川 愛由、沼尻 了俊、藤井 聡
59~72 首都機能バックアップの立地可能性に関する考察―京阪神地域およびかつての移転候補地を対象に―
波床 正敏
73~82 自治体と大学の連携に基づく住民・学生参加による「まち歩きマップ」制作活動の評価
森田 哲夫、篠原 良太、塚田 伸也
83~95 商店街組織活動における非公式組織の役割―奈良もちいどのセンター街「夢CUBE」事業を事例に―
南 愛、松村 暢彦、加賀 有津子
97~106 公共調達制度適正化についての一考察―欧米諸国の制度との比較・考察を踏まえて―
藤井 聡、宮川 愛由
107~113 小学校地域学習におけるシビックプライド涵養に関する実践的研究
田中 尚人、堀尾 和美
115~123 多様性指標を用いた商店街群の比較分析―ショッピングセンター・がんばる商店街・一般商店街の比較―
波床 正敏、山本 功樹
125~133 臨床心理学の地域社会支援への活用
須永 直人

掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・桑子 敏雄・藤井 聡・森栗 茂一
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)

大阪市における特別区設置協定書に関する住民説明会での説明内容のテキスト分析

谷口 るり子

 本論文はいわゆる「大阪都構想」について行われた住民投票にて、法律で定められている「首長からの投票内容についてのわかりやすい説明」が成されたのか否かの検証論文である。著者は市長・行政側からの「法定説明会における説明内容」について計量的なテキスト分析を行い、投票対象となる特別区設置協定書の基本趣旨であると指摘されている「大阪市廃止」が市長・行政側から一度も説明されていない一方、当該協定書に一切記載されていない事項の論述に膨大な時間が費やされている事が明らかにされた。直接民主主義に基づく住民投票の適正性・公正性を検証し、その結果を公表し、社会的に共有化することは、今後の適切かつ公正な直接民主主義の理念に基づく住民投票を促進する公的実践性を有するものと評価されることから、本論文は本誌掲載に相応しい論文であると判断した。

豊田市における継続的な交通需要マネジメント施策の展開に実践組織が果たした役割

西堀 泰英、山崎 基浩、樋口 恵一

 交通計画における交通需要マネジメント(TDM)が展開され、その有効性を各地で実際に発揮されていくためには、それが長期的に「持続」され続けなければならない。しかし、TDMを担う地方自治体では、一時期TDMに着手しても、早晩終了するなど、継続性が見られないケースが大多数である。そんな中、持続的にTDMが展開されている事例の概要を、TDMの推進を企図するあらゆる関係者が認識しておくことは、きわめて公益性が高い。本論文は、まさにそうした地方自治体の一つとして豊田市に着目し、 TDMが長年継続され、着実に成果が挙げられている経緯とその継続のメカニズムに関する解釈論を適切に記録するものであり、社会的共有知性、公的実践貢献性の双方において評価され、本誌掲載が相応しいと判断された。

地域政策実施時の合意形成にむけたコミュニケーション過程に関する考察

板倉 信一郎

 公共政策実施においては近年、「合意形成」の重要性が強く認識されるに至っている。そのコミュニケーションを円滑かつ適切に進めることを目途として、これまでPI研究や実践的社会心理学研究など、様々な取り組みが進められてきたが、この研究では、既往の研究を踏まえつつ、かつ、合意形成実践に関わってきた実務者としての経験を加味することを通して、合意形成のコミュニケーションプロセスを「4形態」に分類し、それぞれの特徴や要諦を取りまとめている。そして合意形成段階に応じて当該分類モデルの適材適所の活用を提案している。こうした分類と活用方法についての提言は、今後の実務における「合意形成」実践に貢献可能なものであると期待され、その内容を社会的に共有する価値は十分にあるものと考えられたことから、本誌掲載が相応しいと判断された。

東日本大震災における路線バス運行現場の災害応急対応―岩手県大船渡エリアを対象に―

佐藤 良太、谷口 綾子

 本論は、大船渡地域における東日本大震災発災直後のバス事業従事者の行動と考えを暗黙知として記録し分析した論文である。災害エスノグラフィー研究として、自発的発話を促す半構造化インタビューの方法、インタビュー結果は共有化されるべき価値を有すると思われる。地域的にも事業者としても限定されており、かつ4人という少人数であっても、説得的な記述と分析で社会的共有知を確保しており、学術的価値は高い。エスノグラフィーとは、実はこのような小さなものの積み重ねそのものであるということを、実践的に示した点も高く評価したい。加えて、質問項目が経験・知識を「尋問」するのではなく、「①震災対応で最も印象に残っていること、②震災対応で苦労した点、困った点、③今回と同じように対応すると思う出来事、④今回と異なる対応をしようと思う出来事」という、自然の発話をうながす傾聴姿勢に貫かれており、公的実践に対するエスノグラフィー研究として有意義な方法であり共有知性が高いと判断した。

河童の民話における土木技術者の位置づけに関する民俗学的研究

中尾 聡史、森栗 茂一、藤井 聡

 土木技術者の社会での位置づけに関して、民俗学的検討と歴史学的検討を行った、非常に興味深い論文である。公共事業・建設業界や土木技術者へのマスコミや市民からの評価が高くないという現在的状況の中で、その背景として河童民話として出現するある種の差別性を民俗学的歴史学的に明らかにしたもので、これらの新知見は社会的共有知性が高く、また新たな学問分野の開拓という公的実践への貢献性からも評価できる。

大衆性と投票判断基準の関連性に関する研究―「おもろい」候補者かどうかが投票判断を支配したという一事実―

中尾 聡史、宮川 愛由、沼尻 了俊、藤井 聡

 本論文は、我が国において世論の空気に流されやすい「大衆」による人気政治の問題を大阪のことば「おもろい」という概念を基軸に分析している斬新な論文である。スペインの哲学者オルテガの「自分に対してなんらの特別な要求を持たない」者のことを「大衆」とし、近代社会においてその出現が顕著となり様々な社会的弊害をもたらしていることを批判的に論じている点を踏まえ、国民の直接的な政治関与の手段である投票行動に焦点をあてている点も独創的である。オルテガの論ずる大衆性と投票判断基準の関連性を調査分析し、自己閉塞性の高い個人は選挙そのものに無関心である一方、傲慢性の高い個人は、自分自身で物事を深く考えず、候補者の知名度や、周りの人の意見、メディアでの評価といった周辺情報を重視し、いわゆる真面目とは言い難い基準をより大きく重視する傾向が高いとする見解は、考察の方向および成果の両面で社会的共有知性の点で評価できる。

首都機能バックアップの立地可能性に関する考察―京阪神地域およびかつての移転候補地を対象に―

波床 正敏

 京阪神地域と首都機能移転候補地を対象に、首都機能のバックアップ候補地の評価を行った論文である。これまで、国土強靭化の観点から、首都移転やバックアップの議論は様々に行われてきたが、それらをシステマティックかつ包括的に分析を図る試みは十分には存在していない中、「災害リスク」「同時被災の回避」「都市機能活用」「近隣都市・広域・東京へのアクセス性の確保」を用いて候補地の評価を包括的に行うことには、「公的実践貢献性」を見いだすことができ、かつ、その分析の前提とプロセスを明示しつつ結果を公表する本稿の内容は、「社会的共有知性」を持つと評価できる。

自治体と大学の連携に基づく住民・学生参加による「まち歩きマップ」制作活動の評価

森田 哲夫、篠原 良太、塚田 伸也

 本論は仙台市と東北工業大学との連携協定に基づいた、まち歩きマップのワークショップなどによる制作過程と効果評価を行ったレポートである。まちづくり活動の出発点ともなるまち歩きマップの実践記録であるが、本論は地域連携教育として工学系・デザイン系教育の融合した取り組みであり、加えて住民との協働を報告分析している点に特色がある。本教育実践は、生活者視点の資源を協働して発掘し、それをデザイン化したため、制作プロセスに活気が生まれ、結果として利用者目線のマップを作成することができた。さらに、その協働デザインの取り組み成果を今後のデザイン教育に位置づけているなど、本論の活動分析は「社会的共有知性」が高いと判断した。

商店街組織活動における非公式組織の役割―奈良もちいどのセンター街「夢CUBE」事業を事例に―

南 愛、松村 暢彦、加賀 有津子

 本論文は、空き店舗の増加や通行量の減少、後継者の不在といった多くの商店街が抱える課題に対し、商店街主体で建設及び運営する奈良もちいどのセンター街のチャレンジショップ「夢 CUBE」について、組織の協働のあり方を考察した論文である。組織の意思決定や取り組みなど公式なものと個人的な繋がりや認識など非公式なものがそれぞれ役割を持ち相互作用を及ぼして成立しているという組織論の観点から、事業以前から構成員間で形成されてきた非公式組織の役割について明らかにしている。非公式組織やその結果である暗黙に共有された規則、慣習、価値観、理解などが事業以前から構成員間に形成されていること、構成員の貢献意欲のもととなる多様な誘因が提供されていることを明らかにしている点で、社会的共有知性および実践的貢献性の両面から評価できる。

公共調達制度適正化についての一考察―欧米諸国の制度との比較・考察を踏まえて―

藤井 聡、宮川 愛由

 英米仏の公共調達制度とその変遷を調査し、これらとわが国の制度を比較することにより、望ましい調達制度のあり方の方向性についての提案を行う実践的研究である。入り口だけでの透明性の確保から一般競争入札における価格競争が唯一無二であると国民(およびマスコミ)が常識化している公共調達の価値観を、英国のパートナリング、フレームワーク方式、米国のベストバリュー方式、フランスの競争的対話方式など多様な方式と比較し、制度の根本的改善がない日本におけるダンピング課題を明確化したことなど貴重な知見を得ている。フレームワーク方式が事務量・紛争削減に有効な方法として詳細を紹介するなど、本研究の成果が公共調達制度の方向性の提案にまで統合されていることなど、本論文は社会的共有知性と公的実践貢献性の両面から評価でき、登載すべきだと考える。

小学校地域学習におけるシビックプライド涵養に関する実践的研究

田中 尚人、堀尾 和美

 本論文は、18世紀にイギリスで生まれた「シビックプライド」が公 共空間デザインやまちづくりの現場においても注目されていることを踏まえ、シビックプラ イドを「市民が地域社会に対してもつ自負と愛着、またその向上に対して積極的に参加する姿勢」と定義し、その教育 意義、手法開発について研究した論文である。具体的に小学校の地域学習において「まち歩き」を基盤とした地域学習プ ログラムを実施し、児童が「地域社会」との結びつきをクラスメイトとともにグループ学習を行って理解していく過程を示して、シビックプライドの涵養に効果的であることを示している点で、実践貢献性の点で評価できる。

多様性指標を用いた商店街群の比較分析―ショッピングセンター・がんばる商店街・一般商店街の比較―

波床 正敏、山本 功樹

 商店街の活性化について、生物学における多様性概念を使い分析しようとした新たな着想の研究である。「イオンモール」と「その他のモール」、全国的に著名な「がんばる商店街」、「一般の商店街」に関して、その特徴(店舗数、街路長、密度)と商品の種類とサービスの種類により、商店を最小単位として多様性を計測し、特徴を明らかにするとともに、その差を考察している。商店街の活性化は、今日の重要な実践的課題であり、それにたいして興味深い知見を提供しており、公的実践性に優れているとともに、商店街による特徴を抽出した分析は客観的であり、結果は興味深い。読者や社会に共有されるべきであると評価できる。

臨床心理学の地域社会支援への活用

須永 直人

 本論文は、産業組織支援にソーシャルヘルスアプローチを活用したケースを詳細に報告し、地域社会支援への適用可能性について考察した示唆に富む内容である。とくに「Can Do」を皆に問うだけで、意味がでてくる、という点は説得力があった。産業組織支援に関する記述は極めて具体的、かつ詳細であり、興味深い知見を多く提供していて、社会的共有知性と実践性において優れている。地域社会支援への適用可能性についての考察は、若干抽象的ではあるもののインフォーマティブである。共有知性と実践貢献性に優れており、登載すべきと考える。