第3巻 第2号 2017年 秋号

ページ数 タイトル/著者
111~124 分譲マンション管理における社会的ジレンマの解決事例及びその解決に資する学術研究の手法に関する研究
池端 菜摘、中尾 聡史、川端 祐一郎、森栗 茂一、藤井 聡
125~136 実践的まちづくり支援を通じた実務者育成の新たな試み
本田 豊、後藤 正明、樋口 一雄
137~146 大阪府政・市政における財政改革による影響に関する実証的研究
平田 将大、宮川 愛由、藤井 聡
147~158 岩手県上閉伊郡大槌町町方地区復興区画整理事業における近隣コミュニティ単位によるまちづくりワークショップ
福島 秀哉
159~172 地域の存続を巡る存在論的不安に関する研究
羽鳥 剛史
173~180 鬼伝説からみる土木技術者の位置づけに関する民俗学的研究
中尾 聡史、森栗 茂一、藤井 聡
181~194 記者へのインタビュー調査に基づく公共事業を巡る報道バイアス生成要因の分析
田中 皓介、藤井 聡

掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・桑子 敏雄・藤井 聡・森栗 茂一
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)

分譲マンション管理における社会的ジレンマの解決事例及びその解決に資する学術研究の手法に関する研究

池端 菜摘、中尾 聡史、川端 祐一郎、森栗 茂一、藤井 聡

建築物の老朽化による修繕のひっ迫と住民の高齢化に伴う対応力の脆弱化という二重の課題を社会的ジレンマの枠組みでとらえなおし、2つの事例観測をもとに、改善方策についての知見と今後の研究課題の提示という実践のあり方につて論じた論文である。分譲マンションの老朽化と修繕問題は今後ますます増加する大きな社会問題となることが予想され時宜を得た研究であること、得られた知見は共有すべき価値を有すること、今後の研究の方向性とあり方に関する提言は研究実践という点から評価できること、などから登載すべき論文であると判断する。

実践的まちづくり支援を通じた実務者育成の新たな試み

本田 豊、後藤 正明、樋口 一雄

本論文は、「再生塾」という極めてユニークな持続可能なまちと交通の実現に資する人材の育成を目指すNPO組織の活動報告である。再生塾の活動概要が簡単に紹介されるとともに、再生塾の中心的活動であるアドバンストコースのフィールドとして選定された兵庫県西宮市の「にしきた商店街」における実践活動が具体的に描写され、これらから現場における実務者の積極的働きかけ、多様な職種で構成されたチームとしての活動とその中での学びあいなどが実務者の気付き、モチベーション維持向上、スキルアップにとって重要であると考察している。これらは、まちづくり活動の報告としても、実務者育成プログラムの構築に関しても公的実践貢献性や社会的共有知性を有しており、掲載されるべきであると評価した。

大阪府政・市政における財政改革による影響に関する実証的研究

平田 将大、宮川 愛由、藤井 聡

大胆な財政改革を行っている(と少なくとも首長によって主張されている)大阪府政・市政の財政改革が地域経済に与える影響を、名目公的固定資本形成・名目公的支出合計という財政状況変数と、県内総生産・一人当たり県民所得というの経済指標を用いて記述し、考察した論文である。大阪府政・市政の財政改革の特性を各都道府県の財政政策とその影響と対比してその位置づけを明確にした点、地域GDP(全体と一人当たり)の変化率を指標にとり財政改革の影響の実証に挑戦した点などは、意欲的であり政策提言・批判の姿勢は実践貢献性からは評価ができる。また、得られた知見にも共有知性が認められる。

岩手県上閉伊郡大槌町町方地区復興区画整理事業における近隣コミュニティ単位によるまちづくりワークショップ

福島 秀哉

本論文は岩手県大槌町での復興まちづくりを行ったワークショップ(WS)の貴重な記録である。復興まちづくりは、これから必ずどこかでくるであろう大災害後に必要不可欠となる課題であり、その際に復興まちづくりWSの効果的開催は極めて重要な意味を持つものと考えられる。そんな中で、本論文の掲載されている諸記録はそうした重要な実践を今後執り行うにあたって大いに貢献しうるものであり、社会的に共有することが必要であると評価されたことから、本誌掲載となった。

地域の存続を巡る存在論的不安に関する研究

羽鳥 剛史

本論文「地域の存続を巡る存在論的不安に関する研究」は、わが国では、特に地方部や中山間地域において、若年層を中心とした人口流出によって、地域存続の危機という問題に対し、地域存続を巡る「不安」という観点から、地域住民が抱える不安の実態を把握するとともに、住民がその不安と向き合いながら、地域存続の危機を自律的に乗り越えていくための実践的展開の可能性を探った論文であり、共有知性においても、また、公的実践性の点で評価できる。本論文の展開の上で、特記すべきは、キルケゴールの「不安の概念」を参照しつつ、地域存在の危機における個人の不安を「存在論的不安」と性格づけ、これについて論じていることである。キルケゴールは、信仰なき存在者の実存論的な不安を論じていて、地域社会への視野をもったものとしてこの概念を提案したものではなく、また地域社会の存続に対する不安がキルケゴールのいう「存在論的な不安」と性格づけることに対する妥当性については議論の余地があるが、論者が地域社会の問題を論じるための概念として援用したことは、本論の独自かつ冒険的な試みであり、この点を評価し、搭載可とした。

鬼伝説からみる土木技術者の位置づけに関する民俗学的研究

中尾 聡史、森栗 茂一、藤井 聡

少し前までは土木・建築・造園を問わず建設業務に携わる者が罪を犯したときには「土木作業員」と形容されることが多く不思議に思うことがあったが、その根底には土木技術者が、民俗学研究の基本的対象であった常民の枠から外れた者として特殊職業民、漂泊民、被差別民などの非常民、象徴的には「鬼」として理解されていて差別の対象であったことを、非農業文化研究の先駆者である若尾五雄の「鬼」研究を踏まえつつ、指摘した研究である。面白く読め、完成度は高い。共有知性に優れ登載する価値を有すると判断したい。しかし、二次資料を中心に議論が展開されていること、著者の課題認識の中心にある公共事業批判という「土木バッシング」には本研究の主対象である現場のもの以外にも為政者、意志決定者である「上の者」への批判も少なからず影響することも考えられ、これらについては今後に期待したい。

記者へのインタビュー調査に基づく公共事業を巡る報道バイアス生成要因の分析

田中 皓介、藤井 聡

公共事業を巡る報道バイアスの様相とその背景・原因について、新聞記者へのインタビューをもとに記述・分析・考察した論文である。前報は文献調査によるバイアス生成要因の検討であったが、今回は現役記者へのインタビュー調査をデータにした分析・考察である。きわめて重要な公的共有知性の高い論文と考える。本論は価値判断の評価であり、その記述にあたってはより社会的共有知を高めるため、精緻で冷静な議論、記述が求められる。本論は、そのための努力がなされており、掲載することとした。