第5巻 第1号

ページ数 タイトル/著者
5~22 ブラジルにおける土砂災害リスクに着目した土地利用計画段階別・土地利用コントロール手法構築に関する研究―我が国の対ブラジル技術協力を通じて―
横山 大輔
23~30 瀬戸大橋架橋30年の影響に関する事後評価―国土計画上の整備目的に関する達成状況について―
波床 正敏
31~36 大学を核とした共創まちづくり
佐伯 康考、森栗 茂一、中尾 聡史
37~51 地域文化の「学び」を促進する教育プログラムの開発と実践―正岡子規『散策集』をたどるまち歩き学習の事例―
羽鳥 剛史、柳原 捷吾
53~64 大阪都構想を巡る影響に関する有権者の理解度と投票判断の実態検証
宮川 愛由、田中 謙士朗、藤井 聡
65~74 アメリカの高等学校における卒業支援方略に関する質的調査研究
志田 秀史
75~85 人口構成と住宅供給に着目した再開発事業によるジェントリフィケーションへの影響の実態に関する考察―大阪市における「阿倍野再開発事業」を対象として―
蕭 閎偉
87~100 集落形成・生業・地域行事からみた石垣島集落における地域住民の空間認識の特徴
山本 奏音、福島 秀哉、渡部 哲史

掲載趣旨文
文責: 実践政策学エディトリアルボード
石田 東生・桑子 敏雄・藤井 聡・森栗 茂一
(※論文執筆者に含まれる者は、当該趣旨文の文責外である。)

ブラジルにおける土砂災害リスクに着目した土地利用計画段階別・土地利用コントロール手法構築に関する研究―我が国の対ブラジル技術協力を通じて―

横山 大輔

本論文は、大規模な土砂災害に繰り返し苛まれてきたブラジルに対して、日本が防災都市計画についての技術支援を図った事例を報告し、それについて考察を加えている。そしてそれらで得られた知見に基づいて、我が国の都市計画制度において災害リスクを加味することの必要性、ならびに、海外支援における事前情報収集と相手国における各レベルの行政連携の重要性を改めて提言している。これらの提言は、常識の範囲を大きく逸脱しない一般的な水準に止まるものであるが、本研究で報告されている個別具体的な事例報告内容は、それら提言に基づく具体的考察の際に重要な参考情報となり得るとの判断から、一定水準の社会的共有知性と共に、十分な公的実践貢献性が認められ、掲載決定となった。

瀬戸大橋架橋30年の影響に関する事後評価―国土計画上の整備目的に関する達成状況について―

波床 正敏

本論文は、瀬戸大橋が架けられ事による、経済および人口に対する影響を、30年間にわたる長期データを分析するものである。その結果、「架橋ルート決定時期」頃から四国地方の人口減少傾向が緩和されると共に、「架橋後」には中国地方よりも人口の減少傾向が弱まったことが明らかにされた。また、瀬戸大橋の開通を機に、四国地方の県内総生産の推移はそれまでの長期減少傾向を脱し、全国的な推移と比べて同等もしくは好ましい傾向を示すような影響が確認された。この様に、瀬戸大橋架橋という大型インフラプロジェクトが四国に人口増加効果と経済活性化効果をもたらした事が、本研究を通して「始めて」実証的に明らかにされた事から、十分な社会的共有知性が認められる。あわせて、こうして地域間のアクセス性を抜本的に向上させるインフラプロジェクトの有効性が明らかにされたことは、同種のプロジェクトの検討において大いなる参考となることから、十分の公的実践貢献性が認められる。こうしたことから、本誌掲載決定となった。

大学を核とした共創まちづくり

佐伯 康考、森栗 茂一、中尾 聡史

本論文は、日本において、大学を核としたまちづくりが可能であるとの仮説の下、著者らが関わった大学を核としたまちづくり実践の具体的内容を報告すると共に、その実践事例を通して、その仮説が正しい、すなわち、大学を核としたまちづくりを通して、そのまちを活性化することが可能である、という可能性を実証的に示している。この点において、本稿は社会的共有知性があると認められると共に、こうしたまちづくりを大学まちづくりと呼ぶとするなら、本研究で報告されている実践事例は、今後の大学まちづくりを構想し、実践するにあたって重要な情報を提供するものであることから、一定の公的実践貢献性も認められる。こうした判断から、本論文を本誌に掲載することとした。

地域文化の「学び」を促進する教育プログラムの開発と実践―正岡子規『散策集』をたどるまち歩き学習の事例―

羽鳥 剛史、柳原 捷吾

本論文は、学校教育の場面において、地域の伝統、文化の維持継承に関わる課題について、明確な問題意識のもと、具体的なフィールドにおいて行った価値ある研究である。とくに正岡子規に注目し、松山という特色ある地域で行った研究として、教育と地域の関係について特色ある成果を示している。本論文において地域文化の「学び」の基本的な構造について行った考察は、公的実践に役立つとともに、その理論的、知的価値においても優れている。よって本論文を掲載することとした。

大阪都構想を巡る影響に関する有権者の理解度と投票判断の実態検証

宮川 愛由、田中 謙士朗、藤井 聡

2回の大阪府知事と市長のダブル選挙後、並びに大阪都構想を巡る住民投票後という3時点の貴重な意識調査結果を基に、投票行動と情報・事態の正しい把握との関連性についての丁寧な分析・考察を行い、民主的意思決定における情報提供と有権者の状況判断の重要性についての論考を行った研究である。論旨・論理は明快であり、分析も丁寧であるなど完成度が高く、また、住民による審判という究極の意思決定と情報提供のあり方についての課題を指摘したことも評価された。

アメリカの高等学校における卒業支援方略に関する質的調査研究

志田 秀史

本論は、人種・民族格差、階層格差の激しいアメリカでの、高等学校における卒業支援方略に関する事例を扱った質的調査研究である。学力格差、進学機会格差および家庭の社会経済状況格差に関する課題、その結果としての高校中退が課題となっているわが国において、大いなる示唆、実践貢献性の高い質的研究である。学校だけでなく地域の外部専門機関との連携や、外部のチューター・メンターによる卒業支援(中退防止ではない)といったアメリカでの支援のあり方は示唆に富む。また、 本論では質的資料に対する丁寧な分析がなされており、共有知性があると判断し、掲載を決定した。

人口構成と住宅供給に着目した再開発事業によるジェントリフィケーションへの影響の実態に関する考察―大阪市における「阿倍野再開発事業」を対象として―

蕭 閎偉

本論文は、再開発事業における「ジェントリフィケーション」をテーマとした研究である。本論文は、「ジェントリフィケーション」を「一定の地域における再開発によって高級化した住宅が新たに供給され、その所有権も既存の賃貸住宅から分譲住宅へと大きく変わっていくこと、ならびに、こういった住宅を負担できない既存の地域住民から、より高い経済力と社会的なステータスを持つ新たな住民へと入れ替わることにより、地域における住宅供給とともに、人口構成も大きく変化すること」と定義して、とくに大阪府の阿倍野再開発事業に注目して論じている。都市の再開発は、今後の日本において重要なテーマであり、本論文は、公的実践に役立つとともに、その理論的考察においても優れている。よって本論文を掲載することとした。

集落形成・生業・地域行事からみた石垣島集落における地域住民の空間認識の特徴

山本 奏音、福島 秀哉、渡部 哲史

本論は、オーバーツーリズム、コミュニティと観光業とのギャップ拡大・アンバランスなど、観光にまつわる課題が懸念されるなか、住民の環境認識と生活空間認識を把握し、そこから観光戦略・地域戦略への反映を視野に入れた実践的な研究である。今後の観光戦略、地域戦略に活かそうと、村落の階層的境界を、地形、生業、住生活、集落構造、信仰から多様に検討した。従来、村落研究は純基礎研究的側面のみに特化することが多く、観光学は現象の事後評価に関心があつまるなか、政策を意図しつつ、村落の境界認識を多面的に分析した本論は、公的実践性が高く、また、ち密な分析は共有知性も高いと判断し、掲載を決定した。具体的な応用は、今後に期待するものである。